ナチスへ誘う運命の出会い
1929年ドイツのキール海軍基地にハイドリヒはいた。
フェンシングとバイオリンを趣味とする将来を嘱望されたドイツ海軍の中尉だ。
彼はクリスティーナという女性と交際し肉体関係を持っていたが、あるパーティで理想の美しい女性とめぐりあい、お互い一目惚れしてしまう。
女性の友人は、「あの人はダメ。気味が悪いわ。近づくと大ケガしそう」と止めるのだが、その美女は忠告をきかず、彼とダンスを踊り、より惹かれ合う。
女性の名は、リナ・フォン・オステン 。
(美しい!)
彼女は列車の中で彼に言う。
「ドイツが弱体化して悲しいわ」
「すぐには変わらない」
「そう? 変えられる人がいるわ」
と言ってバッグの中から取り出したカードを彼に見せる。
それは、ナチ党の党員証だった。
「婚約するなら私の信念を知って。迷惑?」
「いいや」
「ヒトラーの本を読んで」
「どの本?」
「『我が闘争』でしょ! もっと勉強しないと!」
「分かった、勉強するよ」
列車から車に乗り換え、2人はある屋敷を目指していた。
リナの実家である屋敷に通じる並木路を車が通過する時、リナは自分が最も望むものを彼に語るのだった。
「幼い頃いつも想像したわ。並木が私を守ってくれていると。あなたに見せたかった。毎週末のパーティ、贅沢な料理、至るところに花、夜通しオーケストラの音楽が奏でられ、寝る時間が来ると私はママが私を見つけるまでピアノの下に隠れていた。見せたかった。両親に会ったわね、この試練の時代を誇り高く生きているけど、昔を思うと胸が痛むはず。私が何より望むのは、いつか必ず昔を再び取り戻すこと」
前カノに訴えられ軍法会議で不名誉除隊
美しい名家の令嬢と結ばれ、将来を嘱望された海軍中尉であり、幸せの絶頂にあったハイドリヒであったが、彼をある問題が襲う。
1年半前に出会い、関係を持って来た前カノのクリスティーナ が軍に訴え、軍法会議にかけられることになってしまったのだ。
真剣な関係ではないとお互い合意していたはずが、クリスティーナは婚約していたというのだ。
彼は、「嫉妬から私の結婚を妨害しようとしている」と主張するが、性的関係があったことが「ドイツ軍将校として不適切」とされ不名誉除隊となってしまう。
(当時は性的なことに厳しかったのでしょうが、この処分はキツイな)
軍法会議の間終始、無念さを表情に滲ませるハイドリヒだった。
通常はそこまで問題にならない問題であろうが、クリスティーナの父親が海軍提督の親友であるため、君は優秀だが力になれないと上官から言われる。
実際はクリスティーナが海軍中佐待遇の軍属の娘で、エーリヒ・レーダー提督と縁戚関係にあったため、このような厳しい処分となったようだ。
ハイドリヒは泣きながら自分の部屋で部屋中に当たり散らし、鏡を割ったり物を壊しまくる。
そこへ入って来たリナが彼の顔に手を添え、言う。
「泣かないで。しっかりして。あなたが望むなら結婚するわ。いいわね、私は本気よ。この話は二度としないで」
婚約者の父の紹介でナチス親衛隊のヒムラーと出会う
失職したハイドリヒは、リナの紹介で、ある人物の面接を受けることになる。
その人物こそナチスでやがてヒトラーに次ぐナンバー2になるハインリヒ・ルイトポルト・ヒムラー だった。
ヒムラーは、ナチスにおいて治安・諜報などで強大な権力を握った親衛隊のトップだったが、親衛隊情報部の創設を考えており、その目的は適性分子の情報収集であり、政府機関と外国勢力の関与を暴くことだという。
「情報収集についての君の考えは?」
と問われたハイドリヒは答える。
「諜報活動とは直感と情報を結びつけることです。必要なのは手際の良さと勤勉さ。私ほど勤勉で手際の良い人間はいません」
「証明できるか」というヒムラーに対し、ヒムラーが経営する鶏舎の経営分析をしてみせる。
そして、
「私に任せてもらえれば半年で収益を10倍にし、狐を根絶やしにしてみせます。情報部の運営をぜひ私に」と断言する。
ヒムラーはそれを聞いて「任せよう」と即決する。
突撃隊 のレームから親衛隊は靴箱ほどの規模と揶揄され
ナチス親衛隊情報部長官に就任したハイドリヒは、まず「共産主義犯罪者の殲滅」に邁進する。
ハイドリヒは共産主義者を捕まえ、「同志に言え。ただ1つの政党、1つの国民。1つのドイツ。1人の総統のみ!」と叫ぶ。
ある晩、レーム、ヒムラー、ハイドリヒ、リナらが集うディナーの席で、レームがヒムラーに「ヒムラー、噂はよく聞いている。ベルリン中にスパイや密告者を放ち、ナチ党の適性分子は君を恐れている。SA(突撃隊) に入れよ」と言う。
ヒムラーは答える。
「SAはすでに4万人。まだ不足かね?」
「嫉妬か?」
「SS(親衛隊) は靴箱ほどの規模だからな、アドルフ(ヒトラー)の考えは分かる。君は大事な人材だ。少なくとも彼が権力を握るまでは」
「さあ、どうでしょう」とハイドリヒが口を挟むが、リナが心配して「美味しいワインですわ」と話の流れを変える。
ヒトラーが首相に選出。ヒムラーは突撃隊ほか「反党分子」を粛清
ヒトラーが首相に選ばれ歓喜の行進をするハイドリヒとナチス党員たち
1933年1月30日、ヒトラーがドイツ首相に選任される。
ハイドリヒは語る。
「総統、私は最も優秀なドイツ人だけが人種的に厳選された純粋な精神の持ち主だけが国家を再び偉大にするために戦えると信じます。私は祖国ドイツを愛しています」
ハイドリヒはレームと彼が率いるSA(突撃隊)造反の証拠を集める。
ヒムラーは部下を前に言う。
「総統の前に立ちはだかる者を抹殺するのは親衛隊の義務である」
こうして親衛隊による党内の「浄化」つまり「反党分子の粛清」が始まり、レームもハイドリヒが射殺、粛清の嵐が吹き荒れる。
ヒトラーがハイドリヒにつけたあだ名は『鉄の心臓を持つ男』
ハイドリヒ宅でホームパーティが催されヒムラーの姿もある。
「君が彼を正しく党に導いた。出世するぞ」
「信じています。夫は特別です」
「実に特別だ。総統が彼に付けたあだ名を知ってるかい。『鉄の心臓を持つ男』 だ。
国防軍が征服し、親衛隊特別行動部隊が「浄化」
1939年9月1日、ナチスドイツはポーランドに侵攻。
数十人の部下を前にハイドリヒが次のような持論を述べるが、映像は見るに堪えない虐殺の場面が続く。
「諸君の人種的優越性と強固な思想信条と能力で、総統から最重要任務を託された。新帝国のドイツ化だ。国防軍は征服し、我々は浄化する。すべての外国人、病人、祖国に敵対する者は、抹殺せねばならん。個人には過酷な任務だが、親衛隊の特別行動部隊 として強い意志を持て」
国防軍大将の秘密を握り反体制派の情報を入手
ハイドリヒは国防軍の大将を追って会う。
「国防軍の支援なしには特別行動隊は無力です」
「私は正規軍を率いている。君の部下は虐殺集団だ」
「総統は特別な戦争を」
「戦争だと? 私は国防軍大将だぞ。君が子どもの頃から困難な戦争をしている」
「そのとおりです。互いに職務がある。私の職務は治安維持と諜報活動。監視しメモをとり、報告する。未成年の娼婦の件を総統に」
「何だと?」
「ベルリンの娼館、8月22日、イレーナ21歳。11月22日、カタリナ17歳。2月9日…」
「やめろ!」
「国防軍の高級将校が汚れた娼婦と寝て家名に傷をつける。軍法会議が見ものです」
「お前は経験したからな」
こうして国防軍が持つ反体制派のすべての情報をハイドリヒは手に入れることに成功した。
「ただし『浄化』の開始は我々が去った後だ」
こうして国防軍が侵攻した後、侵略された地の人々は「浄化」の名の下に、ハイドリヒが率いるナチス親衛隊特別行動隊によって虐殺されていくのだった。
父親はオペラを書いた音楽家のリヒャルト・ブルーノ・ハイドリヒ
長男クラウスにピアノ演奏の指導をするハイドリヒがクラウスとリナに言う。
「父さんはボヘミア・モラビア保護領 の副総督になる」
実はハイドリヒは音楽家の家に生まれている。
父は音楽家リヒャルト・ブルーノ・ハイドリヒ。
母はザクセン王国のドレスデンの宮廷で宮廷顧問官をしていた音楽研究者ゲオルク・オイゲン・クランツ教授(Georg Eugen Krantz)の娘、エリーザベト・マリア・アンナ・アマリア・クランツ。
なぜか音楽家にはならず、1922年3月30日に18歳でドイツ海軍に入隊している。
筆者注
保護領とはチェコのことだ。ナチスはチェコスロバキアのボヘミア・モラヴィア地方、つまりチェコをドイツ帝国に統合し、「保護領」としたのだった。
一方、ナチスはスロバキアに関しては独立国ではあるが属国とした。
「プラハは帝国における初のユダヤ人のいない都市となる」
チェコの副総督に就任したハイドリヒ Jason Clarke/HEYDRICH
1941年、チェコのプラハに舞台は移り、ハイドリヒが高い演壇から兵士らと市民たちに演説する。
「我々は歴史的転換点を迎えている。プラハはベルリンやウィーンと並んで、帝国における初のユダヤ人のいない都市となる。前任者の寛大な政策ではこの目的は達成できない。ユダヤ人は直ちに最寄りの警察署に出頭し、人種を示すマークを身につけるように。すべてのチェコ抵抗組織は容赦なく破壊され解体されるだろう。と同時に、兵器工場で働くチェコ人の給与を引き上げる。チェコ人に告ぐ。諸君が我々の友である限り、我々も友人である」
不満を募らせ言ってはいけない言葉を吐く妻に夫はキレる
多忙でいつどこへ行くかも知らされない妻のリナは、不満を募らせる。
「あなたは立派よ。でも街では皆が私を見る。珍しい動物でも見るかのように」
「何が望みだ? ドイツに帰りたいのか」
「いいえ、一緒にいたいのよ。私のための時間はないの?誰のお陰なの」
(言いたい気持ちは分かるが、男としては絶対に言われたくない言葉かも)
ハイドリヒは怒り、
「もういい! 止めろ。妻でいたかったら、そこまでにしろ」
ピアノを弾く長男とバイオリンを奏でるハイドリヒ。
ぞの演奏を聴きながら思わず涙ぐむリナ。
「最終解決」の実施要領が示されたヴァンゼー会議
1942年1月20日、ヴァンゼー会議。
ハイドリヒはわずか数時間で「最終解決」の実施要領をまとめ上げた。
「『浄化』の方法論の問題と迅速化に加えて法的に重要な決定を下したい。軍で叙勲したユダヤ人や混血のユダヤ人など全員の処遇を見直す」
「1942年1月1日現在のユダヤ人人口統計。ドイツ人70万人、ポーランド200万、ラトビア30万、リトアニア15万、エストニア浄化完了。スロバキア8万8千、クロアチア4万、同盟国イタリア5万8千、中立国1万8千、スウェーデン8千、トルコ5万5千。特別行動部隊は効率的だが、1100万人を絶滅させるにはより組織的かつ最新の技術が必要だ。ユダヤ人を収容所に送るのが『最終的解決』だ。男女別に収容し、働ける者には強制労働を課す。その結果、自然に数が減る。残った者はさらに効率よく処理しよう」
という内容だ。
筆者注
それまでは、親衛隊が畑や森に数百から数千のユダヤ人を集めて、機銃掃射で殺戮していた。
しかし処刑執行者のメンタルに過酷な負荷がかかり、屈強な隊員でも士気の低下を招く結果となった。あのヒムラーでさえも卒倒しそうだったと言われるほど処刑の光景は酷(むご)ものだった。
そこでトラック密閉された荷台にユダヤ人を詰め込んで排気ガスを送る方法も考案されたが手間がかかり過ぎるということで中止になった。
そこでハイドリヒが考えついた最終解決法は、収容所への送致だった。
こうしてユダヤ人絶滅作戦はハイドリヒの腹心アイヒマン手に委ねられた。
ハイドリヒ暗殺の半年前にふたりのチェコ兵士がパラシュートで降下
ハイドリヒの乗る車が速度をやや落とした時に、その前にライフル銃を持った男が立ちはだかる。
だが、ボルトアクション(銃のことは詳しくないので多分)がうまく作動せず、男は逃げる。
ハイドリヒは車の上に立って拳銃でその相手を狙う。
が、もう1人の男が後方からハイドリヒ目掛けて手榴弾を投げた。
ここえ場面は半年前に戻る。
場所は、在英チェコ軍基地だ。
訓練やサッカーをして過ごす兵士の中から、数名に秘密指令が下りる。
チェコにいるコードネーム『東方の三博士』 たちとの共同作戦のようだ。
選ばれた数人の兵士たちはチェコのピルゼン上空でまず2人が、他の者はその5分後にパラシュート降下するという。
降りた所は一面雪が積もっている。
1人はパラシュートを雪の中に隠すが、もう1人のパラシュートは木に引っ掛かって取れない。
ドイツ軍の追っ手が来る前に早く去らねばならない。
一方、フェンシングの鍛錬が一区切りしたハイドリヒは、ミュラーに言う。
「パラシュート兵2名が昨夜、郊外に降下した」
「現在、捜索中です」
と答えるミュラーに、三博士の捜索も促すハイドリヒだった。
パラシュート部隊員ヤンとヨゼフは現地の支援者の家に
ヤンはアナの家に潜伏しアンナと恋人関係に
その頃、2人のチェコスロバキア兵士は、雪の中を歩き、支援者の男の家にたどり着く。
男は「監視が厳しくなっている、特にプラハに入るのが。分散しろ。雑踏に紛れろ」と言って「労働許可証」を2人に渡した。
1人には目印となる臙脂色のマフラーをヨゼフに渡した。
列車でプラハに入った男たちを1人の女性が迎えに来ていた。
2人はあくまで別行動だ。
燕脂マフラーのヨゼフが連れて行かれたのは一般家庭。
「家族よ。いとこに挨拶を」と夫と息子に紹介する女。
「ヨゼフです」と名乗るチェコ兵士。
「用心して。誰もが敵のつもりで。密告には報奨金が出るの。だから皆がスパイよ」
その女性は窓際に鉢植えの花を置いた。
すると向かいのアパートからそれを見ていた家の主人が、「友人は無事だ」と妻たちに告げる。
すると息子がやはり鉢植えの花を窓辺に置いた。
主人が言う。
「今夜はここで寝て明日は2人とも新しい家に」
もう1人の兵士ヤンがそこにはいた。
「ナチスは絶えず私たちを尾行している。狙いは『東方の三博士』だ」
「私も会いたい」
「分かってる。時と場所を指示するよ。まずは新しい家族を」
ヤンが指示された美容院に行くと若く美しい女性アンナが洗髪してくれた。
彼女の家に案内されると、彼にはアンナの部屋が用意されていた。
彼女は妹の部屋に寝ると言う。
「恋人なら怪しまれないわ」と2人はキス。
( おいおい、随分早い展開だな、会ったばかりだぞ)
「東方の三博士」はモラヴェクのみに
ナチスは遂に「東方の三博士」の居所を突き止め、急襲。
3人のうち1人は殺され、1人は捕らえられ、1人のみが脱出する。
捕らえられた三博士の1人ヨゼフ(アンナと恋人になったヨゼフとは別)は拷問を受け、最後にハイドリヒが尋問する。
「モラヴェクはどこだ」
モラヴェクは脱出した三博士の1人だ。
ハイドリヒは麻痺して立てないヨゼフをドイツ兵士に両脇を抱えさせて無理やり立たせ、尋問を続ける。
「ヨゼフ、パラシュート隊の目的は何だ? 英国の狙いは? モラヴェクはどこだ?」と拳銃をヨゼフに向ける。
だがヨゼフが気力を振り絞って口から発した言葉は、
「チェコスロバキア万歳!」
怒ったハイドリヒはヨゼフに数発続けて撃って殺してしまう。
「残る博士は1人。捜し出せ」
ハイドリヒが滞在する城の管理人から彼の情報を入手
チェコ軍兵士のヤンとヨゼフは、東方の三博士の生き残りであるモラヴェクと、郊外の馬の厩舎で密かに会う。
「隠れ家が親衛隊に見つかり、バラバンは殺され、ヨゼフは今頃はきっと。私が最後の『三博士』だ。ハイドリヒh君らに気づいていて、目的を探ろうと必死だ。よく聞け。これは過去のどんな任務とも違う。君らもこれを」
とモラヴェクは2人に口紅サイズの容器を渡す。追い詰められた時、自害するための青酸カリ 入りカプセルだ。
モラヴェクは、情報を持つ男と明日会うように伝え解散する。
翌日、2人はモラヴェクが手配した男に酒場で会った。
ハイドリヒが執務を行うため滞在するフラッチャニー城(Haradcany Castle)の管理を行う男だった。
城から出る時間、戻る時間、護衛がつく時間などをメモし、田舎の連絡員に渡すよう指示。
メモを受け取った田舎の女連絡員リビアナ が、毎日午後5時に市電の停留所でそのメモをヨゼフに渡す。
そのうちヨゼフが直接リビアナの家でメモを受け取るようになり、この2人も恋仲に。
こうして情報を収集した結果、城に向かう道路の曲がり角を毎朝10時ちょうどに通過することが判明し、そこで決行することにする。
モラヴェクは急襲され頭を撃って自害
ヤンが自転車で街中を走っていると、ある建物の前にナチスが集まっていた。
親衛隊がモラヴェクの居場所を突き止めたのだ。
モラヴェクは入って来ようとした数人の兵士を撃ち殺すと、ベランダに出て、自分の頭を拳銃で撃ち抜いた。
ハイドリヒはヤンを含む通りの市民に対し言う。
「三博士は死んだ。抵抗は終わりだ。家に帰って皆に話せ。すべて終わった」
英国の亡命政府からハイドリヒを撃てと秘密司令
〈プラハ隊を援護せよ。標的はハイドリヒ〉 という指令が英国亡命政府からチェコに潜伏するパラシュート部隊に打電される。
指令を受電したアドルフ・オパールカ中尉はヨセフ・ヴァルチークを起こす。
隠れ家に集まったパラシュート部隊員たちはその2人とヤン・クビシュ、ヨゼフ・ガブチーク、カレル・チュルダの5人。
そのリーダーらしきオパールカ中尉が皆に言う。
「我々は全員チェコ人だから皆に関係する。君が奴を殺せば、君だけでなく、この部屋の全員の命が危ない。一般市民もだ。恐ろしい報復が待っている」
「指令は忘れろ。僕らの未来はどうなる?」とカレル。
「そうだ、ヤン。君の大切な人たちがどんな思いをするか考えろ」とオパールカ中尉。
「考えろだと? 考えているよ。何で僕がこんな任務に?」とヤン。
「だったら任務を放棄しろ」とカレル。
「奴は死ぬべきだ」とヤン。
「代償を払ってもか?」とオパールカ中尉。
「これは抵抗運動なんだろ? 俺たちは何のためにここにいる?」とヴァルチーク。
(ごもっとも。筆者もそう思ってた。この人たち本当にレジスタンスかと)
「市民の命はどうなる?」とカレル。
(この人はまったくの反対者。なぜレジスタンスを?と不思議)
「これは戦争だ」
「分かってる。でも暗殺しても変わらない」とカレル。
「違う。ナチ高官の暗殺は今まで成功していない。ども抵抗組織も。これは人として兵士としての僕らの義務だ」
「世界に知らしめる」とヨゼフ。
「チェコスロバキアは立ち上がって戦うんだ」とヴァルチーク。
「これは自爆作戦だ。だから敢えて聞く。そのことは承知しているな」とオパールカ中尉。
「ヤンと僕が殺害。ヴァルチークは援護。オパールカはどうする?」とヨゼフ。
「やるとも。援護する。祖国のために」とオパールカ中尉は答えた。
自分の意見が通らず不満そうなカレルの表情が気になる。
筆者注
アドルフ・オパールカ中尉(Adolf Opalka)をリーダーとするカレル・チュルダ(Karel Čurda)、イヴァン・コラリク(Ivan Kolařík)のチームはOut Distance(アウト・ディスタンス)でその任務は本来プラハのガラス工場の妨害(サボタージュ)などで3月28日に一緒にパラシュート降下したが、その任務に支障を来したため、ハイドリヒ暗殺任務を負うグループでコードネーム”ANTHROPOID(アンソロポイド)の2人と合流することになった。ロンドンのチェコ亡命政府からの作戦実行司令は5月20日に受け、7日後の5月27日が実行日とされた。
ヨゼフのライフルが作動せずヤンが手榴弾を投げる
ヤンは手榴弾を作り、アンナとセックスする。
ヨゼフは作戦の成功を聖マリアに祈り、コートの下に忍ばせるライフル銃を準備する。
いよいよ決行の時が来た。
ハットを被って自転車で現場に向かうヤン、ハンチング帽を被って路面電車で向かうヨゼフ。
10時が過ぎた。
ヴァルチークが鏡でハイドリヒの車が来たことを実行役のヨゼフたちに合図する。
ヨゼフはイギリス製のステンMk-II短機関銃 をコートの下から出し、路面電車の陰からハイドリヒが乗る車の前に踊り出る。
が、ボルトアクションのボルトハンドル を引いて撃とうとするが、引けない。
(このステンというイギリス製の銃は性能が酷かったらしい。こんな銃しか用意できなかったのか?)
その時、後方からヤンが手榴弾をハイドリヒ目掛けて投げた。
傷を負いながらもハイドリヒが立ち上がり、ルガー拳銃でヨゼフを撃つ。
逃げるヤン。
車から降りてなおヨゼフを追うハイドリヒだが力尽きて倒れ込む。
追うようハイドリヒから命令されたクラインがヨゼフを追う。
ヨゼフは肉屋の建物内に逃げ込み、入って来たクラインを迎え撃つ。
一方、爆風で頭など負傷したヤンは自転車で逃げるが、途中、荷物とともに自転車を置いて逃げる。
ハイドリヒは病院に搬送される。
ナチスの兵士らが大勢駆けつけ、トドメをさせなかったのだ。
Wikipediaによるハイドリヒ暗殺の光景
ヤン・クビシュは英国製のNo.73手榴弾の改造型を2個を携行し、ヨゼフ・ガブチークは分解したステンMk-II短機関銃とスペアマガジン一本を携行していた。 2人はそれぞれM1903拳銃も携行していた。(理由は不明だが、ガブチークは信管無しのNo.73手榴弾も携行。) ヨゼフ・ガブチークが短機関銃でのハイドリヒ狙撃を実行予定で、ヤン・クビシュの手榴弾は緊急時対応用であった 1942年5月27日、朝8時30分頃までに襲撃メンバーの4人は予定の待ち伏せ地点に到着し、それぞれの持場についていた。 ヤン・クビシュとヨゼフ・ガブチークはヘアピンカーブ内側の歩道で、オパールカは道路の反対側の全体を見渡せる地点で、バルチークはカーブから北方面に坂を登ったキルヒマイヤー通り沿いでハイドリヒを待ち受けていた。 ヨゼフ・ガブチークは組み立てたステンMk-II短機関銃をレインコートの中に隠し持ち、クビシュはガブチークより数ヤード下り坂側にいた。 ハイドリヒはいつもならば9時30分頃に襲撃地点付近を通過する毎日だったが、その日はパネンスケー・プジェジャニの自宅出発が10時頃と遅くなっていた。 アンソロポイドが待ち伏せている襲撃地点にハイドリヒは10時30分過ぎに現れた。 車が右折カーブに差し掛かったところで、歩道から歩み出たガブチークがステン短機関銃を構えてハイドリヒに向けて発砲しようとしたが、装弾不良で銃からは弾が出なかった。 ハイドリヒとクラインもガブチークの存在に気付き、ハイドリヒはクラインに停車するように命じてしまった。 ハイドリヒとクラインはガブチークに反撃すべく自分たちの拳銃に手を掛けた。 ヨゼフ・ガブチークが発砲しないのを見たヤン・クビシュは改造手榴弾をハイドリヒの車めがけて投げ込み、手榴弾は車の右後輪付近で爆発した。 その破片は車の右後輪を破裂させ、右後部車体に穴が開くほど破壊した。 同時にヤン・クビシュは、あまりにも近距離から手榴弾を投げたので、自分もその爆発で胸部と顔に軽傷を負ってしまった。 ヤン・クビシュは道路の反対側に置いてあった自分の自転車に乗り、キルヒマイヤー通りの坂を下りプラハ市街方面に向かって逃走した。 一方ヨゼフ・ガブチークは動作しなかったステン短機関銃を捨て逃走を始めようとしたが、ハイドリヒの車と同時にカーブに差し掛かかり停止した電車と、その電車から出てきた乗客に遮られて、自分の自転車が置いてある道路の反対側に渡ることが出来ず自転車で逃走する事を諦め、ハイドリヒの車が走ってきた方向(キルヒマイヤー通りをプラハ市街と反対の方向)に走って逃げることとなった。 手榴弾の爆発で負傷したハイドリヒは、クラインに襲撃者の追跡を命じた。 クラインは最初にクビシュを追いかけようとしたが、クビシュが自転車で逃げ去ってしまったので、徒歩で逆方向に逃げ出したガブチークの後を追った。 ガブチークとクラインは拳銃を打ち合いながら追跡逃走劇を繰り広げ、ヨゼフ・ガブチークはキルヒマイヤー通りの坂を登り一本目の道(独名:Kolingarten. チェコ旧名称:Kolinske. 現在はGabcikova)を左に入り、そこを直進した二本目の通り(Pomezni)を左折したところにある肉屋(Brauner’s)に逃げ込んだ。 店主のBraunerはゲシュタポにも繋がりのあるドイツへの協力者だったので逆に店を飛び出し、追いかけてきたクラインにガブチークが店内に潜んでいる事を教えた。 ここでの撃ち合いでガブチークはクラインの太腿に命中弾を与え、走れなくなったクラインを振り切って逃走することに成功した。 一方、負傷したハイドリヒは通りかかったトラックに載せられて、襲撃現場から近くのブロフカ病院(Bulovka)に搬送された。
引用元:Wikipedia
ヤンが通りに残した自転車などの証拠品を回収できず
リナが病院み駆けつけ、ハイドリヒの部下ミュラーたちに怒りをぶつける。
「どういうことなの。護衛があなたの任務でしょ」
何も言えない部下たち。
病室に入ると、夫のハイドリヒが軍服のまま血だらけでベッドに横たわっていた。
一方、ナチスは犯人探しに躍起だ。
アンナの妹がヤンの乗り捨てた自転車を回収しに行くがずでにナチスがいて、回収できなかった。
アンナの家にもナチスが入って来た。
パラシュート部隊員のメンバー6人はキリスト教会の地下に身を潜める。
棺桶に入って脱出する計画だったが
狭い空間に横たわった2人の会話。
「ここから出た後は、戦争に勝ち、リビアナとアメリカへ」とヨゼフ。
「偽装の関係じゃなかったのか」とヤン。
「気が変わったんだ。お前はどうする? アメリカへ?」
「いや、ここで暮らす、自由な国で」
「自由な国…」
狭い空間と思ったら棺桶だった。
棺に入って脱出するという作戦の練習中だったのだ。
「子どもたちを育てろ、良きアーリア人に。名に恥じぬよう。良きドイツ人に」
病院でハイドリヒは息も絶え絶えに妻のリナに言う。
「子どもたちを育てろ。良きアーリア人に。名に恥じぬよう」
「はい」
「良きドイツ人に」
「あなたなしで?」
「信じろ、総統を」
そこへヒムラーがやって来る。
リナが黒革のファイルをヒムラーに渡す。
「総統のために」とハイドリヒ。
その書類のタイトルは、「ユダヤ人問題の最終的解決」。
「父はオペラを書いた。その一節を思い出す。『この世は手回しオルガン。神が奏でるオルガンの調べに合わせて皆踊る』 。奴らを踊らせろ」
ヒムラーが軍靴を鳴らし、右手を高々と挙げる。
ハイドリヒの最期だ。
Wikipesiaによる史実
ヒトラーは、親衛隊とゲシュタポにハイドリヒを殺した人間をボヘミア中から探し出し、「血の報復」をすることを命令した。最初、ヒトラーは広範囲のチェコの人々を殺そうとした。しかし協議の結果、彼はその責任を数千人に限定した。チェコはすでにドイツ軍にとって重要な工業地域となっており、見境の無いチェコ人の殺害は生産性を減らすと考えられたからである。結局、1万3千人の人々が殺害された。有名な事件として、リディツェとレジャーキの2つの村の住人が虐殺されたものがある。
情報を持ちながら通報しない者は銃殺刑、通報者には報奨金
ナチスの兵士たちが松明を掲げる中、ハイドリヒの棺が担がれて進む。
一方、教会の地下に潜む2パラシュート部隊員らは抱き合って喜び合う。
ハイドリヒの葬儀が大々的に執り行われた。
Wikipediaによる史実
ハイドリヒはナチスの重要人物の1人であったため、二つの大きな葬儀が行われた。ひとつはプラハで行われ、数千人の親衛隊員がトーチを持ってプラハ城まで並んだ。二つ目はベルリンで催され、参列したヒトラーはハイドリヒの枕元にドイツ勲章と血の勲章のメダルを置いた。
チェコのリディツェ村 ではナチスによる報復として村民の虐殺が行われた。
チェコ軍兵士で1938年に英国に亡命した者たちがいるというだけの理由でだ。
暗殺に加担したかどうか不明のままに行われた大量虐殺だ。
「保護領の住民に告げる。ハイドリヒ副総督殺害に関する情報を持ちながら通報しない者は銃殺刑に処す。リディツェ村はその報いを受けた。男は銃殺。女子どもは収容所行きだ。通報すれば報奨金が与えられる」
とナチスの車は街中をスピーカーで流し、走り回る。
その音声は教会の地下まで届く。
「止まらないぞ、名乗り出るまで」
「全員殺される、ダメだ」
筆者注
犯人逮捕につながる情報提供者に対しドイツは1万コルナの報奨金を与えるとした。 1、犯人に関する情報を提供できる者 2、現場で犯人を目撃したことを証言できる者 3、公開した証拠品の所有者、特に婦人用自転車、コート、ベレー帽、手提げカバンの紛失者 他方、上記の情報を持ちながらも通報を怠った者は家族ともども銃殺するとした。 3は、ヤンが逃亡時に乗り捨てた自転車、コート、帽子、カバンだ。
パラシュート部隊にも「ユダ」がいた
こういう時、どうしてキリストの弟子ユダのような人間が現れるのだろうか。
「パラシュート部隊の情報を持っている」
とナチスに密告する者がいた。
その名は、カレル・チュルダ 。
彼もパラシュート部隊の一員だ。
暗殺に反対していた彼だ。
Wikipedia引用
サボタージュを目標としたグループ「アウトディスタンス」のメンバーであったカレル・チュルダ が100万ライヒスマルクの報奨金目当てにチームのその地の接触先を密告するまで、彼らを発見できなかった。
こうして支援者らの家がナチスに急襲され、ヤンやヨゼフが最初に世話になった支援者家族は、ある者は捕われ、ある者は服毒自殺する。
ナチスは、捕まった支援者家族の父親を拷問し、その様子を年端もない息子に見せ、チェコ兵士の隠れ家を白状させようとする。
最初は耐えていた少年だったが、将校が「目玉を焼け!」と命じると、さすがに耐えられなくなって、少年は「教会」と白状してしまう。
(この少年の演技はすごい。欧米の子役は演技がうまい)
教会で激しい銃撃戦。地下納骨堂に逃げ込んだヤンとヨゼフの最期
教会での銃撃戦でからがら地下の納骨堂に逃げたヤントヨゼフだったが…
教会は包囲され、銃撃戦の場と化す。
当初は多くのナチス兵を倒すが、数人の籠城で多数のナチス軍に対抗するのには限界がある。
4人はナチスの銃弾に倒れ、チェコ兵2人は地下の納骨堂に逃げる。
筆者注
映画『ハイドリヒを撃て!』 では7人のパラシュート部隊員が6時間立て籠もったが、『ナチス第三の男』では6人となっている。史実としては7人で、ヤンを含めた3人は、銃撃戦の末に大聖堂で殺害された。ヨゼフを含んだ4人は、地下納骨堂に逃げ込んだが、水責めに遭って追い詰められ、全員が自殺した。 裏切り者のカレル・チュルダはドイツの偽名とドイツ人妻を得たが、戦後の1947年、自殺に失敗。後にナチス協力の罪で逮捕・処刑された。
そこでナチスは納骨堂を水責めする。
水位は時間とともに増して行く。
壁を掘れば下水管に通ずるはずということで掘るのだが間に合いそうもない。
水嵩は増し、間もなく天井まで届きそうだ。
必死に壁を掘るヨゼフにヤンが言う。
「弾は6発」
「アメリカは? 向こうに下水管がある。掘れ!」とヨゼフがヤンに言う。
しかしヤンの心は決まっている。
「あっちで会おう」とヤンが言う。
2人は額をくっつけ、
「いいか一緒だぞ」とヤンが言い、2人は体を離すと、お互い銃口を側頭に向け、そして引き金を引いた。
水中に沈んで行く2人、銃、そしてヤンのロザリオ、アンナの写真、新聞の切り抜き…。
出会いは2年前「自由軍」参加のためクラクフへ行くトラックの荷台で
チェコ人のヤン・クビシュとスロバキア人のヨゼフ・ガブチークが出会ったのは2年前、
ポーランドにおいてだった。
自由軍 に参加するために国境を越えたヤンは農場のトラックに乗せてもらった。
その時すでに荷台にいたのがヨゼフだった。
2人は息が合って、クラクフまでの道のり、しゃべり続けた。