ミュンヘン
何者かがどこかの柱に穴を開け、時限爆弾をセットしている。
爆破予定時刻は、1939年11月8日夜9時20分。場所はミュンヘンのホール(ビュルガーブロイケラー)。
ナチスのヒトラーが市民を前に演説している。ナチス幹部のヒムラーなどの顔も窺える。
演壇のヒトラーに、霧が深いので飛行機が飛べないとの連絡が入る。
筆者注
ビアホール「ビュルガーブロイケラー」は、かつてミュンヘン一揆の舞台となった場所で、その16周年を記念して前年に引き続きヒトラーが演説を行った場所だ。
スイス国境
一方、ドイツからスイスへ国境を越えようと歩いている不審な男に警備兵が声をかける。
そして、その男の背広の襟の裏に「赤色戦線同志同盟」のバッジを見つけ、拘束する。
時計の針は9時18分を指している。2分後が爆発時刻だ。
故郷ケーニヒスブロン
ドイツの田舎町ヴュルテンベルクのケーニヒスブロンにゲシュタポ(ナチスの秘密警察)がやって来る。
地区の指導者エーベルレに、ゲシュタポは「ゲオルク・エルザーの身内を連れて来い」と命令する。
恋人のエルザも連れて来られ、ベルリンに連行される。
ベルリン・ゲシュタポ(秘密警察)取り調べ室
ゲオルク・エルザーが取調室に連れて来られる。
皆が「ハイル・ヒトラー」と言う中で、ゲオルクは1人「こんにちは」と返す。
部屋には、刑事警察局長のネーべと、ゲシュタポ(秘密警察)のミュラー、そして記録係の女性の姿があり、拷問の道具も見える。
「君の暗殺計画のけ結果、何が起きたと思う?罪のない7名の人々の死だ」
とネーべが言えば、ミュラーも続ける。
「臨時雇いの給仕もいる、二児の母親や妻子を残して死んだ音楽家もいる」
「彼らが何をした? 何の権利があって殺した?」
(ナチのお前がよく言うよと思うが一旦スルー)
ネーべとミュラーは、暗殺が成功したと思っているのか、総統はご無事だとゲオルクに告げる。
「爆発の13分前にビュルガーブロイケラー(会場の酒場)をお出になった」
とネーべは言って、ゲオルクに自白を促すが、ゲオルクは、
「さっさと銃殺してくれ」と答える。
名前と生年月日を言えと命じられるがゲオルクはそれには答えず、ある曲を口ずさむ。
ボーデン湖畔コンスタンツ
ゲオルクはボーデン湖畔のコンスタンツで青春を謳歌していた。
1932年、バーデン=ヴュルテンベルク州の都市ボーデン湖畔コンスタンツでゲオルクは歌い、踊り、女たちと戯れ、青春を謳歌していた。
彼は時計屋で働いていたが、酒浸りの父親が土地を売り払ったと母親から連絡を受け、ケーニヒスブロンに帰郷する。
筆者注
ボーデン湖は、ドイツ、スイス、オーストリアの3カ国にまたがる面積540㎢を有するヨーロッパ第3の広大な湖。この西端に位置するのがコンスタンツで、温暖な気候のため人気のリゾート地だ。スイスと国境を接する。
故郷ケーニヒスブロン
いつまでいるの? と知り合いの女性ローレに声をかけられ、4週間だけとゲオルクが答えると、4週間だけでも役所に届け出が必要だと言われる。
ゲシュタポ取り調べ室
名前と生年月日を言わないゲオルクをミュラーは殴るが、それでも黙秘を続けるゲオルクに今度は拷問だ。
「あの男の目はバカじゃない。信念がある。証拠があるんだから…」と拷問を止めようとするネーべに、
「総統は自白をお望みだ。報道のためにも、自白してサインするまで殴る」とミュラー。
「殴ってもムダだ」
「この私に指図するのか?」
「君こそ先に気づけたはずだろ」
※
ネーべはゲオルクに言う。
「なぜドイツ民族の同胞の君がそこまで総統を憎むんだ? しかも11月8日に」
そこへゲオルクの恋人のエルザが連れて来られる。
故郷ケーニヒスブロン
夫とダンスを踊るエルザ(中央)
故郷ケーニヒスブロンのレストラン(酒場)でゲオルクはエルザと出会う。
女友だちにタンゴを教えようとしていたエルザに、ゲオルクがエルザをリードしてタンゴを踊ってしまう。
レストランに入って来たナチ党員が、ナチが第1党になった、社民党は敗北したと告げ、「ジークハイル」の声が響き渡る。
「党が政権に就いたら縛り首だ」と共産党員の労働者たちにナチ党員が言えば、「お前たちこそ革命で処刑だ」とやり返す労働者ら。
外でそのやりとりを聞いていたゲオルクは、
「バカどもだ」とつぶやく。
ケンカして血を流した労働者がゲオが、
「またナチと殴り合いか」と言うと、
「音楽屋め! 平和主義者のクソ野郎」という侮蔑の返答。
「黙れ!」とゲオルクが叫ぶと、労働者の友人ヨーゼフが、
「臆病者!」となじる。
「ああ臆病者で結構。暴力は解決にならない」
ゲシュタポ取り調べ室
回想から取り調べの現在に戻り、ネーべがゲオルクに命じる。
「なぜやったのか恋人に説明しろ」
「あなたがやったの?」とエルザ。
自白しないゲオルクに、恋人の身に害が及ぶことを示唆するネーべ。
ゲオルクは神に祈った後、「エルザは関係ない。何にもしないでくれ」とネーべに頼む。
「名はゲオルク・エルザー。1903年1月4日生まれ」
「所属政党は?」
「ない」
赤色戦線のバッジを出して「これは?」と問うネーべに、「赤色戦線のバッジだ。でも共産党員ではない」と答えるゲオルク。
投票はしたが共産党員ではんじ、集会すら参加したことはない、とゲオルクは言う。
故郷ケーニヒスブロンの工場の壁
「労働者はドイツ共産党を選ぶ」とゲオルクが調達したペンキで壁に書く労働者の友人たち2人とゲオルク。
そのうちの1人はヨーゼフだ。
だがスペルが間違っていて「h」が抜けているとゲオルクが指摘する。
ゲシュタポ取り調べ室
単独で実行したことをミュラー(右)、ネーベ(左)に証明するゲオルク。
「政治に興味のない者が、あんな暗殺を企てるか?」
「僕は自由だった。正しいことをする。自由を失ったら死ぬ」
新聞は「暗殺犯逮捕」「イギリス諜報機関の手先」と報じる。
報告書を読んだ親衛隊大将は、
「単独犯というのは虚偽の供述だ。こんな爆弾は単独では作れない」
「本人は単独犯と言ってます」と言うネーべに、
「鵜呑みにするのか。総統の命令だ。何としても黒幕を吐かせろ!」
とにべもない。
「単独なのは明らかです」
「弱腰のうえに役立たずか。総統がお怒りになるぞ」
筆者注
この時の親衛隊大将の名はこの映画では示されていないと思うが、この時期だとフリードリヒ・フォン・シューレンブルク伯爵 (Friedrich Graf von der Schulenburg)だと思われる。
実物写真
※
こうして過酷な取り調べが再開される。
「私は夜1人で30回も酒場に籠り、ドリルの騒音を隠すため布で覆って10分おきに便所の水が自動で流れる時にその水音に紛れて作業しました。音が止むと10分後を待ちました」
職人の君に爆弾が作れるのか。資材の調達は? 黒幕は? と矢継ぎ早に聞かれ、ゲオルクは言う。
「村に電話が2台あるけど、1台にチャーチルがかけて来て、電話に出た僕に言ったんだ。『ヒトラーを吹き飛ばせ!』と」
怒ったミュラーが拷問を命じようとすると、ゲオルクが言う。
「紙と鉛筆をくれたら証明するよ」
故郷ケーニヒスブロン
周囲はナチ党員が増殖し、ハイル・ヒトラーが挨拶になって来ている頃、レストラン(酒場)でエルザの夫エーリヒがエルザに頬を引っ掻かれたのを知って、ゲオルクはエルザの家に向かう。
エルザはベッドに伏せていて、顔にはアザが。
2人はキスし、抱き合う。
「あなたとだと違うのね」
(何が違うのかはご想像のとおり)
ゲオルクが帰宅すると納屋に友人が隠れていて、ゲオルクの前に現れたが、官憲が追って来ていてヨゼフは捕まってしまう。
「今日は党員だけだが、いずれアカは全員逮捕だ」とゲオは彼らから警告される。
街には「ユダに立ち向かえ」というポスターが貼られている。
1934年の収穫感謝祭の日、労働者たちが大勢、官憲によって連行された。
「総統のおかげで技術は進歩した。ドイツは隅々まで豊かになっていくぞ。3年後には誰もが自分の国民ラジオを持てる。すべての道が舗装され、照明も付くだろう」
とエーベルレは皆に向かって挨拶した。
拍手が湧き上がる。
「これが進歩だ。ヒトラー総統だよ」
ゲオルクを除いて皆が「ジーク・ハイル!」を叫ぶ。
「村の運動会」の活動写真が披露される。
ゲオルクは耐えられず1人会場を抜け出す。
ゲシュタポ取り調べ室
ネーべがゲオルクに食事を持ってくる。
「火薬は自分で調達したというが、どうやった?」
「計画を詰める前、工場の出荷担当だったから固形火薬250個をくすねた。火薬は紙に包んで家のタンスに隠した」
「ダイナマイトは?」
「採石場から盗んだ」
工場長の名前を聞かれても覚えていなかったが、隠していると思われ、信じてもらえない。
「誰も庇ってはいない」
「我々の目は節穴じゃない」
「分かってる。だから話してる」
そんな折、スイス司法警察省からナチスが問い合わせていたスイスでのゲオルクに関する情報が入って来る。
「勤勉と評判。午後職場を抜け出し泳ぎに行っても、その分は夜に取り戻した。交友関係は不明」
留置場の部屋は始終明るくされており、手で覆うことも許されない。
故郷ケーニヒスブロン
ゲオルクはエルザの家の部屋を借りて住むようになる。右はエルザの夫
エルザから妊娠したことを告げられ、ゲオルクは離婚を勧める。
やがて、ゲオルクはエルザの家の部屋を借りる。
エルザの家の家具を作っている間は家賃なし、その後は月に20マルクという契約だ。
自転車で街中を走っていると、知り合いの女性ローレが札を首に掛けられ、イスに座らされていた。
札には「私はユダヤ人と付き合う豚です」と書かれている。
ゲオルクが何なんだと駆け寄ると、「一緒に座るか」と言われ、皆が笑う。
ゲオルクはエルザにローレのことを話す。
「恋人の件で? 気の毒に。酷いわ」
「悪くなる一方だ」
※
あの友人ヨーゼフがゲオルクのところにやって来た。
頭髪が丸刈りになっている。
中に入れ食べ物を与えながら話すと、
「収容所から強制労働に送られている。毎週死人が出る。外出は2週間に一度。人とは話せない」
「そんな…」とエルザ。
「お前は失業中か」
「いや自営だ。でも楽じゃない」
「じゃ工場に来いよ。ナチが煩わしいけど」
ゲオルクは帰り際にパンを持たせた。
「囚人にパンを?」と心配するエルザに、ゲオルクは言う。
「僕のパンだ。禁止なんて関係ない」
「ゲシュタポが来たら全員捕まってしまうわ」
ゲシュタポ取り調べ室
「大袈裟な装置だな」とネーべが言う。
「火薬が多めですが、威力を高めたかった」
「時計が2つ?」
「1つだけじゃ不確かだから。時計は14日間作動するもので、6日前から設定可能。爆破時刻は、21時20分にセットじた」
「13分遅かったな」
「起爆装置は?」もう1人の技術者らしき人物が質問する。
ゲオルクは起爆装置の仕組みを説明するが、ネーべは誰かに教わったのではないかと疑う。
だが技術者は、「全部を把握しており筋が通っている」と、単独を主張する。
故郷ケーニヒスブロン
工場で働くゲオルク。副業で家具の修理を請け負う。
工場で働くゲオルク。
「挨拶はハイル・ヒトラー」の貼り紙が見える。
「極秘に何を作ってる?」
収容所に入れられている友人ヨーゼフにゲオルクは聞いた。
「たぶん起爆装置の金型だ」
すると「強制労働の者と話すな」と現場の責任者らしき男が叫ぶ。
※
毛布を被って外への音を遮りながらラジオ放送を聞くゲオルク。
モスクワ放送のドイツ語短波放送だ。
「1937年4月26日、ヒトラーはコンドル軍団に命じ、スペインのゲルニカを攻撃した。これほど徹底した無差別空爆は過去に例がない。少なくとも260名が爆撃や火災で死亡した。ゲルニカ壊滅作戦は、国際法違反だ。ドイツは戦争に向かっている」
ゲオルクは思わず声を発した。
「ナチの奴らめ」
友人にゲオルクは聞く。
「なぜ皆ナチを支持するんだ?」
「ナチならすべてが良くなると…」
「ならないよ」とゲオルクは断言した。
※
ドイツ軍の戦車パンサーが製造される工程が活動写真で流される。
「ドイツは空に強い。空軍兵士が優れていることに加え、航空業界の発達も寄与している」
グラマン戦闘機が映され、ヒトラーの演説の映像に変わる。
「ドイツ国の指導者そして首相として歴史を前に今宣言する。オーストラリアはドイツに加入する」
「ジークハイル!」
※
「ユダヤ人お断り ケーニヒスブロン村」と書かれた看板の掲げられた道路をゲオルクは通過する。
「戦車を作り始めている。戦争になるぞ」
とゲオルクがヨゼフに言う。
「ボヘミアみたいに?」
「ヒトラーが英仏を攻撃した。この国は全滅する。何かしないと」
「工場に爆弾でも投げ込むか」
「労働者が死ぬだけだ。今すぐ何か過激な方法を考えなくては。標的は指導部」
「銃か爆弾で?」
「ダイナマイトは採石場にある。起爆装置はこの工場に」
「個人ではムリだ。ヒトラー阻止は外国や将軍に任せろ」
「手遅れになる。今やらなくては」
故郷ケーニヒスブロンのエルザの家
ゲオルクは家具を修理しながら、
「君が奴とやるなんて」と不満を漏らすと、
「拒めないのよ」
とエルザが答える。
そして2人がキスをしていると、そこへエルザの夫エーリヒが帰宅してその様子を目撃してしまう。
夫エーリヒから暴力を振るわれるエルザを救うためゲオルクはエルザのエーリヒにノミを突きつける。
「殺してやる。覚えてろ」と捨て台詞を残してエーリヒは去った。
「一緒に逃げよう」とゲオルクは言う。
「出来高払いで働いているし、副業で家具の修理も請け負っている。隣町なら家賃も安いし」
「ナチの労働戦線なら…、楽なのに」
※
屋根裏で新聞の「ビュルガーブロイの演説」の写真や「総統の演説全案内」などのパンフレットを眺めるゲオルクは、「1938年11月8日総統の演説」をメモし、時刻表を調べる。
ミュンヘン・ビュルガーブロイ
暗殺計画のちょうど1年前に時限爆弾を仕掛けるためミュンヘンの演説会場を調べるゲオルク
終わったばかりの総統演説の会場にゲオルクの姿はあった。
ある場所の柱をゲオルクは採寸しているのだ。
取り調べ
「君ほどの優秀な労働者はナチ党員になるべきだ」とネーべが言うと、
「ナチは国民の敵だ。今我々の時給は68ペニーだが、10年前は1マルクだった」
とゲオルクは返す。
筆者注
1マルクは100ペニーだから、3割以上減ってしまったことになる。
「総統が労働者を顧みないとでもいうのか」
「総統は有害だ」
「気は確かか」
「強制収容所は何だ? 弾圧と搾取に苦しむユダヤ人は?」
「浄化だよ」
「あの電撃戦は侵略だ。ポーランドは併合される」
「強い者の権利だ」
「このままで済むとでも? 英仏も宣戦布告して来ただろ? 戦場になれば壊滅的な被害を受けるぞ。際限なく血が流され、爆撃も食らう。分からないのか?」
「被害妄想だな」とネーべは呆れる。
「犠牲者が出る。『天意』は総統の口癖だ。ならばナチも天意に従うべきだ。『汝殺すなかれ』という天意に」
「8人も殺した奴がよく言うな」
とミュラーが言うとゲオルクが怪訝な表情を向ける。
「聞いてのとおり、昨夜また重傷者が死んだ」
「大きな犠牲を防ぐためだった。失敗も恐れたが、やらなくてはと…」
ネーべは報告書の結論を出す。
“指導部を排除しない限り国の情勢は変わらない。必要な材料は1人で集めた。後ろで糸を弾く者はいない”
ミュラーはゲオルクに言う。
「後悔するぞ」
ネーべとミュラーが退出すると、ゲオルクは記録係の女性に語りかけた。
「犠牲者の遺族の伝えてほしい。心からのお悔やみを。エルザや家族には僕が無事だと。彼らに神の御加護を祈っていると」
ゲオルクの頬に涙が伝う。
「全部僕の責任です。そう伝えてください」
取り調べ室の廊下ではネーべとミュラーが会話を交わしていた。
「奴の供述は本当だろう」とネーべが言えば、
「真実は我々が作る。弱気になるな」とミュラーが叱咤する。
記録係の女性はそっと捜査資料の中からエルザの写真を抜き、ゲオルクに渡した。
故郷ケーニヒスブロン
エルザの家の近くで爆弾の設計をメモっていた時、男2人がサイドカーに乗って行くのを確認したゲオルクは、エルザの家に入る。
「私たちの息子よ。分かるの。名はゲオルクよ。夫は激怒したけど、出生届を出しちゃった」
引き止めるエルザにゲオルクは仕事だと言って家を出るが、行先は森の中で、そこで起爆装置の実験を行った。
実験は成功した。
ゲシュタポ取り調べ室
ゲオルクが再現した大きな設計図の周りにミュラーやネーべ、カメラマンがいる。
カメラマンはゲオルクとネーべに、設計図を指差すよう指示。
そこへ突然、親衛隊大将が入って来て、皆右手を挙げて敬礼する。
「総統を批判したんだって?」
「そうです」
「ハイル・ヒトラー!」と叫ぶや高官はゲオルクの頭を掴んで机に打ちつけた。
「祖国を育て、勝利に導く方だぞ。天意を遂行する最高の指揮官だ。お前のような小物に何が分かる、バカめ!」
「でも真実です」
高官はそれを聞いてさらにゲオルクの頭を机に打ちつけた。
「黒幕を吐かせろ! 催眠でも薬でもいい。科学の力で自供させろ。早く黒幕を暴けと総統も仰せだ。辛抱も限界だ」
※
ゲオルクの足の甲に医師が自白剤を注射した。
故郷ケーニヒスブロンの酒場
エルザが離婚後のことをゲオルクに相談するが、ゲオルクの頭の中は設計のことでいっぱいだ。
そんな折、エルザとゲオルクの息子が突然死する。
ゲオルクは荷物をまとめ、キャリーバッグに入れて街を出て行こうとする。
それを追って来たエルザがゲオルクに言う。
「挨拶もなしにミュンヘンへ? あんまりだわ」
それに対しゲオルクは返答せず、カメラを構え、エルザを写真に納める。
「ミュンヘンで何かするつもりね。戻らないの?」
「短期間だよ」
「許さない。子どもが飢えてしまう」
「信じて待っていてくれ。詳しくは言えないが、大事な仕事がある。終わったら結婚してスイスへ行こう。ダンスもできるよ」
「そんなの夢だわ。生活がある。私を捨てる気ね。独りで生きて行けってこと?」と言ってエルザは引き返して行った。
ゲシュタポ取り調べ室
「黒幕は?」
「誰が雷管の手配を?」
「爆薬は誰が?」
「黒幕の名前を言え」
自白剤を注射されたゲオルクだが、答えは変わらない。
「独りでやった」
※
その後、ゲオルクがミュラーとネーべに言う。
「僕は悪いことをした。償いたい」
「なぜ? どうやって?」
「償いとして僕も民族共同体に入って活動する」
「できるのか」
「考えを変えた。僕の考えが正しければ計画は成功したはずだ。だけど失敗した。そうなる運命だったんだ。考えが間違っていたということだ」
※
ゲオルクは書類に署名した。
1939年11月23日、事件から15日後のことだった。
5年後の1945年春、ベルリンのプレッツェンゼー刑場
処刑のため拘束されているのはゲオルクではなく、ネーべだった。
「1945年3月2日の公判で人民法廷は判断した。元親衛隊中将アルトゥール・ネーべは、7月20日の暗殺未遂事件で謀反に加担し、警官たちを反逆者たちに協力させる準備を行った大逆罪と国家反逆罪で死刑に処す。資産は没収する」
読み上げたのはあのミュラーだ。
円形のピアノ線を首にかけられ吊されたネーべ数分間体を痙攣させいきたえる。
医師が死亡を確認し、他の者がズボンを脱がせる。
ネーベの反逆
1941年6月にアインザッツグルッペンが組織された際にはそのB隊司令官となり、中央軍集団にしたがって白ロシアからモスクワ戦線へかけて進軍した。道中ユダヤ人やパルチザンと目された人々を大勢殺害。ネーベが隊長を務める間だけでもB隊は4万5,467人の処刑の報告をしている。
1942年にドイツ本国のライヒ保安本部に戻り、1942年6月に国家保安本部長官ラインハルト・ハイドリヒが死亡するとその後任として国際刑事警察委員会(ICPC、インターポール)総裁となった(1943年に新国家保安本部長官エルンスト・カルテンブルンナーに引き継いでいる)。
しかしまもなくネーベは反ヒトラー派に転じ、ルートヴィヒ・ベック陸軍大将やハンス・オスター陸軍大佐ら軍の反ヒトラー派と謀反に向けた連絡を取り合うようになった。また反ナチス地下組織ともたびたび接触して警察の情報を流した。1944年7月20日のヒトラー暗殺計画があった後、ネーベの謀反も発覚した。
ネーベは逃亡したが、1945年1月16日にはゲシュタポにつかまり、3月2日に民族裁判所の法廷にかけられ、ローラント・フライスラー裁判官により死刑を宣告された。3月21日に刑死している。総統アドルフ・ヒトラー自身の希望によりピアノ線による絞首刑であった。
引用元:Wikipedia
ダッハウ強制収容所特別囚収容棟
大正琴に似た楽器チターを奏でるゲオルクに看守フランツがネーべの死を告げる。
「なぜネーべが絞首刑に?」
「シュタウフェンベルク大佐に協力したのさ。君の公開裁判もなさそうだ」
「もうすぐ楽になるよ」
「数年は先だよ」
「エルザは無事だろうか」
「分からないよ、このご時世だ」
「きっと生きてる、どこかで」
「いい話もあるよ。音楽学校に合格したんだ」と言ってフランツはゲオルクに楽譜を渡した。
音楽学校を勧めてくれたお礼だという。
♬
君も僕も若かった 過ぎ去った日々
ただ思い出だけが 僕たちには残っている
僕と君は美男美女 愛し合った
恋人を思い浮かべ 可愛い顔を思い出す
輝いていた昔を
♬
その楽譜を見て、ゲオルクは歌う。
「フランツ、どの方法なら早く済む? ガス? 絞首? 銃殺? 長く待たされた。早く済ませてほしい」
神に祈るゲオルク。
御名をあがませ給え
御国を来らせ給え
我らに日々の糧を与え給え
「イギリスの空爆でドレスデンが壊滅状態だ。十万人が死んだらしい。祈っても敵国の神には届かない」とフランツが言うと、ゲオルクは返す。
「君も僕も過ちばかりだ」
そこへナチたちが来て、「エルザー、尋問だ」
まだ尋問が続いていたのだ。
ゲシュタポ
ミュラーが他の者たちに指令書を読み上げる。
「次のテロ行為でエルザーは死亡したことにせよ。その時が訪れたら、極秘にエルザーを処刑されたし。この件は限られた者で行うよう配慮を求める。報告書は次のように書くこと。『某月某日のテロ攻撃で保護拘禁中のエルザー死亡』。執行後この文書は破棄せよ」
1945年4月
1945年4月9日、ゲオルクは処刑場に連れて行かれ、処刑された。
ダッハウ強制収容所が解放されたのはそれから20日後の29日だった。
ヒトラーが始めた戦争で5500万人以上の尊い命が奪われた。
ゲオルクが反体制の闘士と認められるまで数十年を要した。
エルザは離婚後の2度再婚し、1994年10月11日に死去したが、生涯ゲオルクを愛し、忘れることはなかったという。
ヨハン・ゲオルク・エルザー(Johan Georg Elser)1903年1月4日〜1945年4月9日