『みかんの丘』あらすじ(ネタバレ)と解説と感想[心に残る映画]

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主人公のイヴォ image:Lembit Ulfsak in Tangerines. Samuel Goldwyn Films
はてなちゃん

心に残る映画を紹介してください。

そんなあなたの要望にお答えします。

心に残る映画を観たいというあなたにおすすめの映画は『みかんの丘』です。

1992年、ジョージア(旧グルジア)ではアブハジアが独立を主張し内戦が始まります。

アブハジアへのエストニアからの移民も、ほとんどは帰国してしまいますが、

わずかにまだ残った人たちがいました。

そんなアブハジアのある村に残った老人のイヴォ、近所でマンダリン(みかん)を栽培するマルゴスが、敵対する2人の負傷兵を助けたことで生じる軋轢、和解、そして悲劇が描かれます。

『みかんの丘』は、戦争という不条理の中で人はどれだけ人間性を保てるのかという問いを静かに投げかけて来ます。

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『みかんの丘』あらすじ

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『みかんの丘』のポスター。敵対するチェチェン人アブハジア兵とジョージア兵との間で2人を和解へ導く主人公イヴォの姿が描かれている。

主な登場人物

イヴォ みかんの木箱を作る人、エストニア人 
マルゴス マンダリン農家、エストニア人
アハメド アブハジア軍の傭兵、チェチェン人
ニカ ジョージア軍兵士、ジョージア人
ユンス 医師、エストニア人

舞台 アブハジアのある村

実際のロケ地は、ジョージアのグリア

戦争勃発直後ほとんどのエストニア移民は母国に帰ったが…

1992年、ソビエト連邦が崩壊した直後、アブハジア自治共和国がジョージアからの独立を求めた紛争の戦場となったアブハジアのある村

そこはエストニア移民の村だったが、紛争が勃発したことによってほとんどのエストニア人は母国に帰ってしまった。

残っているのはわずか数人。

ある日、老人イヴォは、近所でマンダリ(みかん)を栽培する友人のマルゴスとともに、近所で起きた交戦で負傷した兵士を助ける。

3人の兵士は死に、1人は軽症、もう1人は頭に砲弾のx破片が刺さる重傷だった。

エストニア人医師ユンスの治療を受けて2人の兵士は快方へ向かう。

ところが助けた2人の兵士は、1人がアブハジア側のチェチェン人傭兵、もう1人がジョージア人の兵士だった。

チェチェン人のアハメドは、幼馴染みの戦友イブラヒムを殺され、ジョージア兵のニカを殺して仇(かたき)を打つと言い張る。

助けたエストニア人のイヴォアハメドはそれを諌めるが、アハメドはなかなか納得しない。

負傷兵とはいえ敵同士が同居するイヴォ宅で、果たして何も起こらず無事に終わるのか。

以上があらすじです。さらに詳細なストーリーを知りたい方は、下へお進みください。

みかん箱作りの作業場に2人の兵士がやって来た

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空腹のアブハジア兵士に食事を振る舞うため自宅へ案内するイヴォ(後方)

エストニアからの移民イヴォが、作業所でマンダリン(みかん)の箱を作っていると、2人の兵士がやって来る。

その兵士らは空腹だというので、イヴォは近くの自宅に招き、食事を振る舞う。

「家族はどこに?」

「戦争が始まった時にエストニアに帰った」

「じいさん、良い人だな。国に帰りな。俺たちのような善人は少ない。木箱作りはいい。立派だよ」

そう言うと、兵士たちは出て行った。

マンダリン(みかん)の収穫を終えて帰国しようとするマルゴスだが…

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みかんの収穫を急いでエストニアへ帰国しようとするマルゴスを手助けするイヴォだったが…

イヴォは近所でマンダリン栽培を行っているマルゴスに会いにいく。

「話はついたのか」

「少佐が7日に兵士20人を寄越すって約束してくれたよ」

「1日だけか」

マルゴスはマンダリンの収穫を急ぐため兵士の応援を要請していたのだ。

だが1日だけの応援なので、それまでにできるだけ摘んでおかねばならない。

マルゴスが収穫を急いでいるのは、この辺りが激戦地になりそうだったからだ。

「今日の10箱で合計200箱だ。足りるか」

「あと50箱は必要かな」

「根を詰めるな。7日までは後5日ある」

家の近くで交戦、5人のうち3人の兵士が戦死し2人を救助

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負傷した敵兵を殺そうとするアハメド(右)と諌めるイヴォ

イヴォが帰宅してラジオを聴くと、多くの砲兵が動員され、空海軍が援護と報じている。

突然、銃声が続けて鳴り響き爆音がした。

気に登って事の始終を見ていたマルゴスが言うには、

「奴らが撃ったんだよ。バズーカ砲だと思う。畜生、木が変になる」

すると、近くから声が聞こえた。

見ると兵士が倒れている。

兵士は言う。

「ジョージアの野郎はどこだ。イブラヒムは死んだのか」

イヴォは答える。

「そうだ。埋葬して来るから待ってろ。医者が来るまでじっとしてろ」

イヴォとマルゴスは4人の遺体を土を掘った穴に横たえる。

「身分証明書はあるか。ポケットも確認してくれ」

「何のため?」

「親族が探しに来たら墓に案内できる」

「このジョージア人はまだ若い」

「ジョージア人は一緒に。髭の男とは別々にだ」

とイヴォとマルゴスが会話をしていると、死体だと思っていた1人が動く。

ジョージア兵のワゴン車を谷底へ処分

まだ息があった兵士を連れて家に戻ったイヴォにアハメドが聞く。

「イブラヒムか」

「いや違う。砲弾の破片が頭に。命が危ない。医者を呼ぶ。急いでユハンを呼び、ワゴン車を片付ける」

「誰を連れてきた?」

「重傷のジョージア人だ」

「じいさん、正気かよ。止めろ。どうせ俺が撃ち殺す」

イヴォが黙ってアハマドを見つめると、アハメドは反省して言う。

「言い過ぎた。謝る。でも俺の友人を奴は殺したんだ」

「彼の友人を殺したのはアンタだろ?」

「全員殺すべきだった。奴の治療はムダだよ」

呼ばれた医者のユンスは治療を終えると言った。

「1週間で治るだろう。後は体力次第だな」

イヴォは、「何をしでかすか分からんからな」と言ってアハマドの寝ている部屋に鍵をかけ、ワゴン車を処分しにマルゴス、ユンスとともに出掛けた。

3人でワゴン車を押して谷底に落下させた。

「爆発すると思った」というマルゴスとユンスにイヴォは言う。

「全部作り物だよ」

「あの2人が俺たちをダメにするかも」

「じゃあどうする?殺すか?」

「誤解しないで」

友人の仇を討つと言い張るチェチェン人傭兵

イヴォが帰宅すると、チェチェン人のアハメドがナイフを持ってジョージア人の寝る部屋のドアに寄りかかっていた。

「友の仇をとる。分かるか、聖なる行為が」

「意識なく寝ている男を殺すのが聖なる行為だと?」

「じゃあ、奴が元気になったら殺す」

イヴォが黙って部屋を出ると、マルゴスが言った。

「もうすぐ奴らが来る。ジョージア人かロシア人。この戦争は何て言う戦争が知ってるか。みかん戦争だ」

「その意味は?」

「どちらが俺のみかんを獲得するか」

「まさか。領地争いだよ」

「この畑は俺のものだ」

「みかんのせいで頭がおかしくなったか」

「みかんが売れたらエストニアに帰れる」

「私の許可なくこの家での殺しは許さん!」

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ジョージアの歌が吹き込まれたカセットテープの飛び出してしまった磁気テープを直すジョージア兵ニカ

ユンス医師の「ジョージア人が目覚めた」という声を聞いたアハマドが叫ぶ。

イヴォがドアを開けてアハメドに言う。

「私の許可なくこの家での殺しは許さん!どうしても言うならこの私を殺せ」

「そうはいかない。じいさんは恩人だ」

「私は本気だぞ」

「分かった、約束する。この家では殺さない。だが一歩家の外に出たら任務を果たす」

イヴォとマルゴスとユンスは外に出て、ユンスと別れを告げる。

明朝エストニアへ発つというユンスはイヴォに言う。

「君も行こう。昔には戻れない。ジ・エンドだ」

「留まる理由はご存知のはず」

「孫娘はどうする?」

「マリは心配ない」

賃金が良いから家族のため傭兵になったアハメド

だいぶ回復して出て来たチェチェン人のアハメドに食事を出してくれるイヴォに、アハメドが謝る。

「この間、罵(ののし)ったことを改めて謝る。きがたってた。老人は敬ってる。本当だ」

「分かった、許そう。傷口は痛むか」

「そうでもない。おれの友人はどこに?」

「森に埋めた。アンタの名前は?」

「アハメドだ。チェチェンからの傭兵だ」

「カネのため?」

賃金が良いから家族のために傭兵になったとアハメドが言うと、イヴォは、

「家族のため?」

「道徳論は不要だ。老人は敬うが、アンタに関係ない。俺の銃はどこだ」

「隠した。治ったら返す。アンタの銃だからな」

「私なら名誉をかけた約束を破るくらいなら死んだほうがましだ」

とイヴォが言うとアハメドも同意し、イヴォは部屋の鍵を掛けるのを止める。

戦争の激化前に一刻も早くみかん収穫を終えて帰国したいマルゴスだが

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「戦時中の兵士たちが、みかんを収穫するって変な話だ」とイヴォは言うのだが…

みかん採りをするマルゴスと手伝うが、たいした戦力にならないイヴォが明日の応援について話す。

「明日来てくれなきゃ全部台無しだ」

「少佐は何と?」

「何にも起きなければ手伝うって」

「戦時中の兵士たちが、みかんを収穫するって変な話だ」

「少佐が約束したんだ」

イヴォがジョージア兵のニカを抱えて部屋からダイニングに来ると、チェチェン人のアブハジア傭兵がニカをにらんだ。

ダイニングテーブルで対面する敵同士の2人。

アハメドはニカを睨みつけながら、

「君は怖がらなくていい。恩人との約束だから彼の家では殺さない。生きたいなら外に出るな。窓から頭を出したら俺が切り落とす」

ジョージア兵のニカはマグカップのお茶をアハメドに思い切り浴びせた。

そこへ、浮かない顔をしたマルゴスが入って来た。

「結局、来なかったのか」

黙ったまま首を振るマルゴス。(この場合、来なかったという意味)

「まあ、みかんは気にするな。戦時中のみかん商売なんて所詮バカげた話だ」

「殺し合わないか」と心配するマルゴス

怒っているかと心配しつつマルゴスの家を訪ねたイヴォは、天気が良いので外で話そうとマルゴスに言う。

「あの2人は放っておけない」

「殺し合わないか」

「チェチェン人が約束した」

「信じるのか」

「ああ」

「ジョージア人は?」

「約束した」

「1人を僕の家に泊まらせようか。お宅の前で彼らは衝突し、フェンスも壊した」

「お宅からワゴン車が見えるし、ワシの家のほうが何かと安心だ」

と言って「今夜うちに来ないか」と続け、イヴォはマルゴスを家に招いた。

「俺の国から出て行け!」

三味線に似た響きの音楽が流れているイヴォのダイニングでジョージア兵のニカが言う。

「イヴォ、他の曲は?頭がおかしくなりそうだ」

アハメドは自分は好きで聴いていると言い、続けて、

「国ではどんな音楽を?ジョージアの民謡が好きか。俺もジョージアの民謡が好きだ」

「ジョージアの土地もか」

「どの土地だ?」

「ここだよ、今いる所だ。君が座っている」

「いや、エストニアのイスだ。エストニア人の家のエストニアのイスだ。ここはアブハジアだ」

ジョージア兵のニカがアハメドに言う。

「勉強したことがあるか。学校はあったか。ニヤけた余所者がジョージアで何をした?」

「お前のような悪魔からこの小国を守るんだ」

「アンタは分かってない、何にも。歴史を知らない」

「好きなだけおしゃべりすればいい。ここは安全だからな」

「外に出ろ!」

だが立ち上がろうとすると崩れ落ちるニカだがアハメドに向かって言う。

「俺の国から出て行け!」

敵同士の兵士が顔を合わせると、その度にこのような言葉の応酬が続くのだった。

アブハジアの士官にみかん収穫の応援を頼む

ダイニングに飾ってある若い女性の写真を見て、ニカがイヴォに尋ねる。

「あれは娘さん?」

「いや、孫娘だ」

「名前は?」

「お前に関係ない」

車の音がして外を見たイヴォが言う。

「アブハジア人だ。ニカを彼らに引き渡すのか」

その問いに「ニカを殺すのは俺だ」とアハメドは答える。

イヴォは、アブハジア兵にバレないようにするため、頭をケガした後遺症でニカは口がきけないことにする。

「君が口をきいたらワシが撃たれる。ジョージアが悪く言われても何にも言うなよ。いいな。重傷で口がきけないんだぞ」

外に出たイヴォは兵士たちに挨拶する。

「アスラン、どうも」

「ジョージア人のワゴン車をみつけた。マルゴスの畑の脇の谷でだ。ここには車がある。何があった? ジョージア人はどこだ」

「チェチェン人が全員殺した。彼ら2人を助けた。傷を負ってる」

兵士たちは家の中に入って挨拶する。

イヴォは、ニカをイブラハムと紹介し、「頭の傷で口がきけない」ことを説明する。

「そりゃひでえ、舌が動かないのか」とアスラン。

イヴォがウオトカを勧めると、アスランは今から最前線で厳しい戦いになると言い、申し出を断る。

「相手は何人だった?」

「3人だ。俺たちを見つけると撃って来た。追いかけて来て、そこで頭に銃弾を。車はフェンスに衝突、畑に突っ込んだ。バズーカ砲をお見舞いしたってわけさ」

「よくやった。遺体は車の中か」

「いや、森に埋めた」

「野良犬だ。路上に棄てておけ」

「奴らも人間だ。若者だった」

「放っておけ」

とアスランは言い、ニカに向かって続けた。

「早く治せ。大切なのは話せるようになることだ」

イヴォがアスランに話しかける。

「アスラン、助けてくれ。マルゴスの悩みだが、少佐が約束したみかん採りの手伝いが来ない。お礼はするから手伝ってもらえないだろうか」

「何人必要だ?」

「30、いや40人」

「問題ない。明後日には人を寄越す。川岸に3日間はいる。みかんを数箱もらえればカネは要らんよ」

「殺す、殺してやるって、そんな権限、誰が与えた?

庭で焚き火をしてバーベキューだ。

美味しい焼肉を皆で頬張るが、兵士2人は相変わらず歪(いが)みあっている。

2人にイヴォが言う。

「次は助けないぞ。殺す、殺してやるって、そんな権限、誰が与えた? だれだ?」

「この戦争だ」とアハメドが答える。

「愚か者!」とイヴォ。

「何に乾杯する?」と聞くマルゴスに、イヴォが「“死”に!」と答える。

マルゴス「“死”に乾杯はイヤだ」

イヴォ「死はこいつらの母だ。死の子どもたちだ」

アハメド「すまない。アラーの名にかけて、もう止めるよ」

イヴォ「どこで殺し合おうと関係ない。治れば戦場に戻り、殺し合う。せっかく同じ席に着いているのに」

マルゴス「僕は“命”に乾杯する」

イヴォ「ダメだ。“死”にだ。“死”に乾杯と言った!」

イヴォは席を立ち、他の3人は沈黙する。

ニカが口を開く。

「みかんの問題は解決した?」

「みかんのことでは、うんざりさせたね」

「そんなことないよ」

「大金になるけど、カネじゃなんだ。腐らせるのが心が痛むんだ」

マハメドが「俺たちが手伝うよ」と言うと、ニカも「ああ」と同意する。

「いいんだ。大勢手伝い来るから」

そんな話をしていると突然、砲弾が炸裂したような音が響く。

アハメドが言う。

「アスランの軍が爆破されたな」

マルガスの家も被害を受け、焼けている。

敵同士の兵士がやがてお互いを尊重するように

イヴォが朝食の支度をしていると、アハメドがマルゴスのところにやって来て、丸めた札束をテーブルの上に置き、

「エストニアに帰る足しにしてくれ」

「何言ってるんだ。そんなの受け取れないよ」

「どんな?」

「そんなのだ」

「俺は雇われ兵で、そのカネだ」と言ってアハメドは札束をポケットに戻す。

マルゴスは人を殺して儲けたおカネを受け取りたくなかったのだろう。

ニカが首に掛けていた十字架をアハメドの前で服に中に隠すのを見て、アハメドがニカに言う。

「キリスト教も敬うよ」

「僕らも他宗教を敬う。でも突然、なんで宗教の話を?」

「別に。死んだジョージア人は友人か?」

「なぜ聞く?」

「気になって」

「軍で知り合った。良い奴らだった」

「イブラハムは幼馴染みだった。」

「残念だった」とニカが言うと、アハメドは「薪が要るな」と席を立とうとした。

それを聞いたイヴォが、自分がやるからとアハメドを留めよいとするが、アハメドは「外の空気も吸いたいし」と外に出る。

が、すぐ戻ってドアを開け、

「アンタの仲間の死を悼むよ。勇敢だった」と言うと再び外へ行った。

イヴォがマルゴスに「なぜ受け取らなかった?」と言うと、マルゴスは、「手伝って来る」とアハメドのところへ。

イヴォが外を見ると、2人は一緒に薪割りをしていた。

「大好きだし…大嫌いだ」

「孫娘の写真をたびたびじっと見てるけぉ、なぜだ?」

とイヴォがニカにたずねると、「気のせいだろ」とニカは返答した。

「見てるだろ」とイヴォが食い下がると、ニカは認めて言った。

「とても可愛いから。目が離せなくなった。ごめんなさい」

「名前はマリ。実物はもっと可愛いよ。私のすべてだ」

「今はエストニアに?」

「戦争が始まって皆ここを出た」

「なぜ残った? ここを離れたくない? そんなにここが好き?」

「大好きだし…大嫌いだ…家族は?」

「母だけ。父は10年前に他界した」

「兄弟は?」

「一人っ子だ」

「戦前の仕事は?」

「劇団の俳優」

「本当か、映画にも?」

「いや、資金不足で映画は作られていない」

「それから兵士に?」

「そう、義務感かあん。母にも言ってない」

「戦争が終わればアンタの舞台を見にトビリシへ。この家の思い出をゆっくり語り合おう」

「アハメドのこととかね」

「いや、ワシと観客席にいて、アンタに拍手を」

それを想像してニカは笑った。

アハメドの厳しい表情を真似て拍手をするイヴォ。

お互い可笑しくて笑う。

結末を読みたい方はここをクリック
 ※ネタバレ含みますのでご注意ください。

アブハジアを支援するロシアの小隊が来てアハメドを疑う

車の音がして、軍人が車両から降りるや、「おい、そこのお前」。

イヴォはニカに隠れているように言う。

「銃は?」とニカが聞くと、「あっちのベッドの下だ。だが触るなよ」

外ではアブハジアを支援するロシアの小隊の隊長(おそらく)がアハメドに向かって横柄に尋ねていた。

「ニヤついて、ジョージア人」

「違う」

「本当か」と疑う隊長。

「アンタの仲間だ」

「じいさんは来るな」と、士官はイヴォが来ようとするのを制した。

アハメドが「俺はチェチェン人だ」と言うと、隊長は「ならチェチェン語で何か言え」

だが、アハメドはロシア語で「俺はチェチェン人だ。負傷してあの人に助けられた」

マルゴスが割って入る。

「少佐を知っています」

「黙ってろ。バカか。チェチェン語で何か言えって言ってんだよ。このバカ野郎が。言えよ」

アハメドが何かを言う。

隊長が「何ていった?」と聞くと、アハメドは答えた。

「チェチェン語で、“バカ野郎”だ」

「撃ち殺せ!」とロシア人隊長が叫び銃撃戦に

「撃ち殺せ!」

隊長が叫んだ。

「止めろ、仲間だ!」と必死に叫ぶイヴォ。

「黙れ、命令だ! やれ!」と叫ぶ隊長。

仲間かもしれないので、兵士たちは引き金を引くのが躊躇われる。

その時、銃声が轟いた。

ニカが窓から発砲したのだ。

「ニカ、銃をくれ!」とアハメドが叫び、ニカが銃を投げる。

しばらく撃ち合いが続いたが鎮まった。

撃ち続けるニカにアハメドが言う。

「もう良い、全員死んだ」

イヴォは倒れているマルゴスに気づき歩み寄る。

その時また銃声がしてニカが倒れる。

アハメドが、ニカを撃った隊長にトドメを撃つ。

アハメドは、うつ伏せに倒れたニカの体を返すが、ニカはすでに息絶えていた。

棺を作りマルゴスをみかん畑にニカを戦士した息子の隣に埋葬したイヴォ

みかん箱を作っているイヴォ。

と思ったら、作っていたのは棺だった。

マルゴスとニカの遺体を納める棺を作ったのだ。

イヴォとアハメドは2人の遺体を棺に入れて埋葬した。

マルゴスの棺はみかんの木の下に埋め、十字架を立てた。

「ニカは?」とアハメドが聞く。

「別の場所に埋める」とイヴォが答える。

「どこに?」

「息子のそばだ」

イヴォの息子は1992年8月に戦争が勃発して間も無く戦死し、その墓は川岸の高台に石を積んで作られていた。

その息子の墓の隣にニカを埋葬した。

「死因は?」

「“自分たちの土地を守る”と言って息子はすぐ軍隊に入った。懸命に説得した。誰のためにもならないとね。でも聞かなかった」

「で、ジョージア人に…」

「そうだ。それがどうした」

「どうして…息子さんの横にジョージア人を?」

「アハメド、何が違うんだ? 答えてくれ」

「何も違わない」と微笑むアハメド。

チェチェンに帰るマハメドとの惜別

「家族が恋しい。イヴォ、教えてくれ。殺されたのが俺だったら、息子さんの横に埋めてくれたか」

「ああ」

微笑み合う2人。

「もう少し離してな」

微笑むアハメド。

「何とお礼を言えば良いか」

「行け。別れは苦手だ」

ジープで去って行くアハメド。

ニカが大事に持っていたカセットテープを車のカセットデッキに入れ、スイッチを入れる。

すると次のような歌詞のジョージアの歌が男性の声で流れ始める。

再び会いたい 君の笑顔が恋しい
君なしではいられない どうにかなりそうだ
どこにも逃げられない 戦争は君とのおしゃべりのようだ
俺は紙の船で戻るだろう 俺は海を渡って帰る

俺が帰らないという 奴らを信じるな
俺は君のもとに帰る 俺は君のもとに帰る
すべてが変わり 愛は哀しみの中でまどろむ

お前を待つ者はもういない 昔を懐かしむ者はもういない
俺は海を渡って帰る 俺が帰らないという
奴らを信じるな 俺は君のもとに帰る

『みかんの丘』予告編(YouTube)

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『みかんの丘』を観た感想

エストニアからの移民である老人イヴォは、家の近くで負傷した2人の敵対する兵士たちを助け、一つ屋根の下で暮らす。

この行為は地元アブハジア軍への裏切り行為であり、露呈したらジョージア兵だけでなくイヴォも殺される。

自分の身の危険も顧みず一人の人間として、ジョージアとアブハジアという敵対する軍の兵士をイヴォは助けたのだ。

一緒に暮らすうちに最初はお互い仇を討とうと躍起だった彼らの心が、次第に和らいでいく。

いつしかお互いの人間性、名誉、宗教や立場を認め合うようになっていく。

助けた2人の敵対する兵士の間に挟まれながら、2人を対立から和解へ導く老人イヴォ。

軍に助けたことを知られたら自分の命が危ういのに、イヴォは兵士たちを匿う。

この彼のヒューマニティーは、どこから生じるのか。

彼は、ジョージアから独立しようとするアブハジアの地にかつて移って住み着いたエストニアからの移民だ。

移民が他国で土地を手に入れ長い年月を過ごすには、大変な苦労が伴ったはずである。

しかし戦争地域になってしまったから移民たちのほとんど母国に帰ってしまった。

イヴォとマルゴスがこの地に留まるのには特別な理由があった。

イヴォは息子がこの戦争で出兵し戦死したため、この地に埋まっているからだ。

マルゴスは、みかん栽培をしているが、苦労して育てたみかんがやっと実りの季節を迎え、帰国の前に何とか収穫を終えたかったのだ。

それは決しておカネのためではなく、腐らせたくなかったからだ。

医師ユンスも兵士たちを治療してからエストニアへ帰るが、彼も現地に住んでいたエストニア人を全員見送ってから自分は帰国しようと考えていたのだろう。

イヴォもマルゴスもユンスもそれぞれの優しさを持っている。

特にイヴォは、この戦争で息子を失ったためか、兵士たちに優しい。

兵士たちの中に息子を見ているのかもしれない。

イヴォもアハメドもいい奴だ。

戦死した彼らの友人たちもいい奴だったろう。

しかし、そのいい奴同士が憎しみ合い、殺し合うのが戦争だ。

息子を戦争で失ったイヴォにしてみれば、なぜ殺し合わなければならないのか、何のために戦うのか、息子はなぜ死ななければならなかったのか、そうしたことを考えざるを得なかっただろう。

その哀しみを超えてイヴォは、若い兵士たちを哀れみ、優しさで包む。

しかし、やっと対立を超えて友情が芽生え始めた頃、悲劇が起こる。

生き残ったアハメドは故国のチェチェンに帰って行くが、2年も経たぬうちにチェチェンが血生臭い戦争に突入することをアハメドはまだ知らない。

戦争とは何か。

国とは何か。

領土とは何か。

人はなぜ殺し合うのか。

人間性とは何か。

いろいろなことを考えさせられる映画だ。

映画『みかんの丘』データ

原題:Mandariinid(英名:Tangerines)
公開年:2013年
:エストニア、ジョージア合作映画
上映時間:87分
撮影地:ジョージア国グリア
:第87回アカデミー賞の最優秀外国語映画賞にノミネート、第72回ゴールデングローブ賞の最優秀外国語映画賞にノミネート

『みかんの丘』キャスト

イヴォ(Ivo):レンビット・ウルフサク(Lembit Ulfsak)
マルゴス(Margus):エルモ・ヌガネン(Elmo Nüganen)
アハメド(Ahmed):ギオルギ・ナカシゼ(Giorgi Nakashidze)
ニカ(Nika):ミヘイル・メスヒ(Misha Meskhi)
ユハン(Juhan):ライボ・トラス(Raivo Trass)

『みかんの丘』クリエイター

監督:ザザ・ウルシャゼ(Zaza Urushadze)

ザザ・ウルシャゼ監督 image:Estonian Foreign Ministry


撮影監督:レイン・コトヴ(Rein Kotov)
製作:イボ・フェルト(Ivo Felt)、ザザ・ウルシャゼ(Zaza Urushadze)ほか
脚本:ザザ・ウルシャゼ(Zaza Urushadze)
音楽:ニアズ・ディアサミゼ(Niaz Diasamidze)

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