[小説レビュー]桐野夏生/だから荒野 女神記 東京島 優しいおとな ナニカアル メタボラ 魂萌え! ハピネス

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桐野夏生さんは、えこりん、ザッキーともに好きな作家です。

やはりほとんど読んでいます。

紹介文は、これから増やしていきます。

桐野夏生(きりの なつお)

1951年生まれ。93年『顔に降りかかる雨』で江戸川乱歩賞を受賞しデビュー。98年『OUT』で日本推理作家協会賞(同作品は英訳され、日本人初のエ ドガー賞候補となる)、99年『柔らかな頬』で直木賞、2003年『グロテスク』で泉鏡花文学賞、04年『残虐記』で柴田錬三郎賞、05年『魂萌え!』で 婦人公論文芸賞、08年『東京島』で谷崎潤一郎賞、09年『女神記』で紫式部文学賞を受賞。ーーAmazonより


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ハピネス

東京の湾岸地区にそびえ立つ、憧れのタワーマンション。

33歳の岩見有紗は、そこに3歳の娘と暮らしている。

子供を一緒に遊ばせる、おしゃれなママ友グループにも入った。

毎日の予定を決める、グループのリーダーは才色兼備の元キャビンアテンダントで、夫は一流出版社に勤めるいぶママだ。

同じく一流会社に勤める夫を持つママ、ママ。そして駅前の普通のマンションに住むママ。

しかし、同じタワマンでも分譲の部屋にすむ3人と、賃貸に住む有紗の間には溝があるように思えるのだ。

ある時、有紗は美雨ママから、「私たちは公園要員」と告げられ、ショックを受ける。

有紗は美雨ママに飲みに行こうと誘われ、そこで衝撃の告白をされるのだが、実は有紗にも、誰にも言えない秘密があった…。

光文社
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だから荒野

独断的で身勝手な夫。子供の頃は可愛かったが、成長してそれぞれ勝手に生きているかのような二人の息子。

朋美は46歳の誕生日に、自分でレストランを予約し、家族を誘った。

だが次男は行かないと言い、夫と長男も勝手なことばかりを言う。

家族に軽んじられ続ける人生に嫌気がさした朋美は、レストランを飛び出し、そのまま夫の車で旅に出た。行き先は、思いつきだが、初恋の人のいる長崎だ。

怖いくらいのリアリティと、相変わらずの媚びない文体で、面白く読める。

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女神記

『古事記』に記された、イザナキ、イザナミの国産みは有名だ。

激しく愛し合って日本の国土を産んだイザナキ、イザナミだが、イザナミはその後、火の神を出産してやけどし、命を落としてしまう。

愛する妻を追って、黄泉の国を訪ねたイザナキは、決して見てはならないというイザナミとの約束を破り、蛆のわいたその屍体を見てしまう。

恐怖に駆られて逃げ出すイザナキと、夫に裏切られて永遠に黄泉の国に閉じ込められた哀れなイザナミ。命がけで出産する女の苦しみと男の不実は、神代の時代から変わらずあったということか。

本書は大筋は変えないものの、この神話を編み直し、まったく新しい物語になっている。海蛇の島で巫女の家系に生まれた姉妹。

美しい姉は大巫女となり、妹は穢れを背負って闇の巫女になった。男と女、光と影、陰と陽。万物はすべて相対する二極から成り立っている。

掟を破って出産した妹、ナミマだが、なぜか愛する男に殺され、黄泉の国へ。そこには、死の支配者となった、イザナミがいた。

…神であっても、女であることは悲しい。

東京島

桐野夏生

無人島に、一組の中年夫婦が流れついた。3ヵ月後には23人の若者たちが。さらに11人の中国人が。島には一人の女と30人以上の男たちが暮らすことになる。

物語のヒントになったのは、太平洋戦争末期にマリアナ諸島の孤島に32人の男と一人の女が7年にわたって暮らした「アナタハン島事件」だ。

男たちは女を巡って争い、殺し合い、救助されたときには、男は19人に減っていたという衝撃的な事件で、映画にもなった。

今回、作者が作り上げたのは現代のフィリピン沖の無人島。

そこで人々は救助を待つが、いつまでたっても船はこない。

やがて、人々は島を「トウキョウ」と名づけ、気の合うもの同士、ブクロ(池袋)、ジュク(新宿)など、いくつかの集落に分かれて暮らし始めた。

中国人たちはホンコンと呼ばれ、日本人グループとは別の集落を作った。

たくましく自活するホンコンたちに比べて、脆弱でリーダー不在の日本人グループ。

不安と焦燥感の中、とりあえず食料があることがわかると、ただ一人の女である清子の争奪戦が始まった。

四十代の清子に、二十代の若い男たちが群がる逆ハーレム状態。

謎の死を遂げる男たちも出始める。

同時に島の空気も微妙に変化してゆくが、女はいつもしたたかで強い。

優しいおとな

近未来の東京・渋谷。親の顔も知らない、15歳の少年イオンは、渋谷の路上で一人で暮らしていた。

イオンは、おとなには優しいおとなと、優しくないおとな、どっちつかずのおとながいると教えられていた。

優しいおとなは少ない。優しくないおとなは避けなければならない。

最も多い、どっちつかずのおとなは一番やっかいだ。

優しいふりをして、肝心なところで突き放される。

ストリートチルドレンへのボランティア活動をしているモガミは、優しいおとなかもしれない、とイオンは考える。だが、もしかしたらどっちつかずのおとなかもしれない。

10歳の時に、児童保護センターを逃げてきて以来、イオンは一人ぼっちだ。

それでも、両親から無償の愛を受けた記憶のないイオンは、寂しさは感じない。

ひとりぼっちが当たり前だ。

しかし、イオンはかつて一緒に暮らしていた「きょうだい」がいたことを思い出す。鉄と銅。きょうだいたちのリーダーで、いろんな事を教えてくれた。

「おとなには3種類いる」と言ったのも鉄と銅だ。そこでは、イオンは守られていた。

鉄と銅への愛を思い出したイオンは、愛を失う悲しさと恐怖におののく。

愛を知る前よりも、愛を知った後の寂しさや憎しみ、ねたみの感情に苦しむ。そして、鉄と銅を探して、アンダーグラウンドへと落ちてゆくのだが…。

地下で出会った様々な人々。自分から、あえて光のささない世界で生きるのには、それなりの事情があった。

また、闇人と呼ばれる人々は、絶対的な平等を求めて、誰も光に照らされることのない、闇の世界に自ら生きているのだという。

絶対的な平等とは何か。本当にやさしいおとなとは何か。愛するとは何か。愛されるとはどういうことか。

誰にも優しくない現代に、真に優しいおとなはいるのだろうか? タイトルには、著者の痛烈な皮肉が込められているのだろう。

ナニカアル

『放浪記』で知られる林芙美子が生きた戦争のさなかは、作家にとっても大変な時代だった。

陸軍報道部の嘱託として南方に派遣された1942年から1943年、軍からメモをとることも禁じられていたせいもあってか、このころの林芙美子には謎が多い。

そこで、桐野夏生は恋に身を焦がす林芙美子を想像で描いた。

戦後、急に花が開いたように作風が変わって、5年の間に次々と傑作を発表して亡くなった林芙美子に、戦争中何かあったのではないか。そんな素朴な疑問を桐野は小説に込めたという。

同時に、本作品は戦争を描いた小説でもある。ペンの力を、戦意を鼓舞するプロパガンダに利用しようとした日本という国。

英語を話すとスパイ容疑をかけたお粗末さ。

南方への命がけの旅路。夫のいる身でありながら、更に新聞記者の愛人までいながら、芙美子は船長と情事に及ぶ。

船の中では退屈しているし、同時にいつ死んでもおかしくない状況なのだ。

そんな時、芙美子のようにとらわれのない女だったら、そういうこともあるかもしれない。

南方についたら、今度は新聞記者の愛人との逢い引きを待ち焦がれる。

さらに後に養子として引き取った子どもも、実は芙美子が産んだ不倫の子だったという衝撃的な出来事。

本作品は、林芙美子が残した、未発表の小説とも日記とも分からない文章という設定だ。

近年の作家だけに資料は膨大で、残された史実も多い。

その中で、桐野はその隙間を縫うように、謎に包まれた南方滞在中を軸に、縦横無尽に描いている。

実在の人物を、想像でここまで書いてよいのかと思うほどだが、桐野の描く芙美子があまりにもたくましく生き生きとしているので、林芙美子とはこんな人だったのだろうと思ってしまう。

ルンペン作家と呼ばれてさげすまれながらも、大衆の人気を武器に自由奔放に生きた芙美子という人の、あまりの生命力に圧倒されるのだ。

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メタボラ

『OUT』の英訳版がエドガー賞候補にノミネートされるなど、海外でも注目されている桐野夏生。

惜しくも受賞は逃したが、エドガー賞はエドガー・アラン・ポーにちなんで作られた米国ミステリー界でもっとも権威ある賞だから、ノミネートされただけでも大変なことだろう。

今回も、さすがのうまさで、分厚い本なのに一時も飽きさせない。

沖縄の森の中、必死で逃げまどう青年。一体何から逃げているのか?

驚いたことに、青年は名前をはじめ、一切の記憶を失っていた。

『メタボラ』は、新陳代謝を表す言葉。

この記憶喪失の青年も、過去の全てをリセットされ、否が応でも新しい人生を歩き始める。

森の中で出会った宮古島出身の若者、昭光に、ギンジという名前をもらい、自分が何者かも分からない不安におびえながらも生きてゆく若者。

脳天気でハンサムなプレイボーイ、昭光。まるで光と陰のように、二人の人生が交錯する。

沖縄という、一見光に満ちた明るい南国を舞台にしながら、そこに集まる人間たちの暗部も照らし出す。人間の本質がえぐられる。そこが怖い。

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魂萌え!

子供も独立し、定年を迎えた夫とともに静かな老後を送るはずだった59歳の敏子。

平凡な主婦だった敏子の人生は、突然の夫の死で激変した。

資産家でもないのに、長男とは遺産相続で確執が生じた。そして何より、夫には十年来の愛人がいたことが発覚したのだ。

平穏だったはずの過去もまやかしだった。

敏子はとまどう。遺産を巡って同居を迫る長男から逃れるように、敏子は生まれて初めてのプチ家出を試みる。

そこで敏子は、ビジネスホテルに住み着き、自らの悲惨な人生を語って金を取る老女に出会うなど、今まで知らなかった世界をかいま見るのだ。

夫には十年も騙されていた。だが、家庭のことしか知らぬまま、ぬくぬくと守られてもいた。世間には欺瞞と欲望が渦巻いている。

同級生や夫の友人など、敏子の周りの熟年世代は、そば打ちや人気歌手の追っかけなど、それぞれの人生を謳歌しているようでいながら、恋の駆け引きや見栄も欲も捨てられない。

夫に従順な家庭の主婦として半生を過ごしてきた敏子には、すべてが驚きの世界だった。

歳をとって一人で生きてゆくことへの不安と悲しみ。けれど、孤独の裏側に自由があると気づいたとき、敏子は変わってゆく。

この物語は、誰にでも起こりうることではないだろうか?

歳をとったら欲望や恋愛感情からは遠く離れて、落ち着いていられると思うのは幻想にすぎない。

肉体は衰えても、いや、衰えるからこそ、恋への想いも熱く燃えるのかもしれない。

歳をとっても惑うのが人間なのだろう。

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