「おカネを返せなかったら、お前の父親の骨を粉々にするからな」
後日ワナジャがラチと一緒に歩いていると、1人の男が近寄って来て言った。
「おカネを返せなかったら、お前の父親の骨を粉々にするからな」
男は郵便配達員のラム・バブで、ワナジャの父親にカネを貸していて、返済を迫っていたのだ。
ワナジャの父親は漁師で舟を持っているが、最近漁船が多くなり過ぎて稼ぎが減っている。
娘の学費も負担だ。
「学校は好きか。続けたいか」
「働いて欲しいならそうする。でも女地主のお宅じゃなきゃイヤ」
先日、女地主が舞踏の名人だと知って、彼女から舞踏を習いたいとワナジャは考えたのだ。
学校をやめ地主の家の使用人になるワナジャ
クチプディ舞踏の第一人者である女主人ラマ・デビから指導を受ける
父親と一緒に女地主を訪ねたワナジャは、雇うのを渋る女地主ラマ・デビに、
「よく働きます。読み書きもできます。テルグ語と英語です」とアピールする。
すると女地主が、水牛の世話はできるかと尋ねる。
「いいえ、でもヤギの搾乳はできます。料理や木登りだってできます」
「何だって?」
「お宅の果物をもぐために」
「うちの果物を盗んだというのかい?」
首を横に振るワナジャ。
「奥様の若い頃に似ているかもしれません」
と、使用人で女主人の息子の乳母。
そんなやりとりを通じて女主人はワナジャを気に入って雇うことに。
「いいわ。月給500ルピーで食事と部屋付きね」
ヤナジャは女主人から舞踏を習う機会を狙っていたが、チャンスが訪れる。
女主人が乳母とゲームしているのを見て、自分なら勝てるといい、ならば1週間分の給料をかけてみろと乳母から言われ、勝ったら音楽と舞踏を教えて欲しいと申し出る。
こうして音楽と踊りの稽古を仕事の合間に受けるようになる。
ハンサムで高学歴、長身、マッチョの息子に憧れる
南インドの舞踏クチプディを舞うワナジャ
ある日、ワナジャが実家に帰ると、父が酔い潰れていた。
郵便配達のラム・バブが借金のカタに舟を売ってしまったからだ。
舟を買うために、ワナジャは舞踏大会に出場して得た賞金の300ルピーを家に置いていく。
近いうちボーナスももらえるかもしれないから貯めようと父親に言う。
アメリカに留学していた女主人の息子が選挙に出馬するため帰って来ることになり、その時に特別のボーナスが支給されるらしい。
ハンサムで高学歴、長身、マッチョの息子を見て、少女のワナジャは憧れと恋心を抱く。
女主人から踊りの稽古を受けていたワナジャが舞うのを突然やめて何かと思うと、息子が見に来たからだ。
恥ずかしそうなワナジャ。
父親の舟を借金のかたに奪ったラム・バブに復讐しようと
アメリカ帰りのシェカールに少女のワナジャは憧れを抱くが想いは踏みにじられることに…
ある日、女主人宅にラム・パブが郵便を配達に来てワナジャは彼に近寄る。
「大きくなったな」
「すべてね。アンタにはわからないでしょうけど」
「幾つになった?」
「15歳」
「本当にきれいだよ」
「全部見たい?」
「誰かに見られる」
彼を建物の陰に連れて行き、「あなたから見せて」と挑発するワナジャ。
ところが建物の上から見ていた使用人の少年ヤドギリが、2人がイヤらしいことをしていたと女主人に告げ口してしまう。
「こんなことが知られたらお前と結婚したい男はいなくなるよ」
「奥様、あいつは父の舟を奪ったんです。それで‥」
「いくら復讐したいからって」と呆れる女主人は言う。「私がこんなに目にかけてやっているのに」
このやりとりを息子のシェカールは聞いていた。
ワナジャをいじめる女地主の息子シェカール
使用人にボーナスを配り、合計額を母親から問われたシェカールが19,500ルピーと言うと、ワナジャが900だと間違いを指摘。
母親から数え直すよう言われて息子はまた19,500と答える。
母親がメモを見てチェックすると900だ。
女主人は「数え間違いは罪ではない。でも間違いを隠すためにウソをつくのは別だ」と息子を叱る。
(女主人はもっともなすばらしいことをおっしゃるが、後に間違いを隠す)
面白くない息子は、ワナジャをいじめる。
たとえば、木に登って果物を落としていたワナジャの下に行き、彼女が恥ずかしくてしゃがみこむと、わざと果物を取れと命令する。
ワナジャが拒むと「ここから出て行け」。
女地主の息子に犯されるワナジャ
後日、このバカ息子はワナジャにとんでもない行為をする。
「犬に餌をやれ!」と命令してワナジャを人気のない犬小屋に行かせ、押し倒したのだ。
「人に見せるのが好きなんだろ?」と、レイプしたのだ。
ワナジャが復讐のためラムパブを誘惑したことを立ち聞きした女主人の息子は、尻軽女だ誤解したにしても人を人と思わぬ非道な行為だ。
ワナジャは処女だった。
寝床に横になって痛みに耐えるワナジャの様子に気づいた乳母に問い詰められたワナジャは本当のことを伝えるが、乳母は最初警察に行こうかと言うが、直ぐに「でも奥様には強大な力があるからね」と言う。
さらに乳母は、
「他の人が知ったらお前はお嫁に行けなくなるよ」
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ワナジャの稼いだおカネは父親の酒に消え
実家に帰ったワナジャを待っていたのは飲んだくれて寝ている父親だった。
「酔ってるの? おカネはどうしたの?」
ハッと気づいてももう遅かった。
ワナジャが舟を買おうと貯めていたおカネに手をつけていたのだ。
ワナジャが生まれた時、2度と酒には手を出さないと妻に誓ったが、舟を失ってから酒が手放せなくなった。
何度も止めようと思うができない。
ワナジャは海辺に行って気持ちを鎮めていると、ラム・バブが寄って来て、欲望を満たそうと誘惑する。
「アンタの仔牛を売って太ったいい女を買いなさいよ」
「ただでできると思ったのに」と言い捨てて去るラム・バブ。
借金のかたに娘ワナジャを嫁がせる?
後日ラチからワナジャは、ラム・バブがワナジャの父親にワナジャをくれれば借金を帳消しにしてやると言ったという話を耳にする。
ワナジャは「私の値打ちってそんなもの?」と憤慨する。
父親は、ワナジャにそろそろ身を固めたらどうだと言う。
ワナジャは言う。
「相手はハンサムでスラッと背が高くて、ラム・バブよりカッコ良くて‥」
「もちろん! 彼のことなんか考えもしなかった」と父。
(ウソつけ!)
女地主のバカ息子の子を孕んで
結局ワナジャは女地主のところへ戻って働く。
息子の立候補を発表するパーティーで給仕をしていたワナジャは、吐いてしまう。
体調不良で伏していると、乳母がやって来て主人にすべて伝えたという。
女主人は息子シェカールを叱った。
「まだ子供じゃないか。お前には恥というものがないのか」
ワナジャに向かっては、
「どうして私に相談しなかったんだ。今すぐ堕すんだよ」
(即堕胎を言うのってどうなの?が、インドではそうかな。それに、ラマ・デビに相談したら、そう言われると分かっていたから相談しなかったんだろう。)
ワナジャは走り去る。
父親の友人の行者に匿ってもらうワナジャ
父のソマヤと一緒にワナジャはラチの家に行った。
ソマヤはラチの父親のヤグネッシュに頼む。
「娘をかくまってくれ。滞在費は用意した」
ヤグネッシュはソマヤに堕ろすべきだと忠告する。
ワナジャはラチに助けを求める。
ラチは渋る父ヤグネッシュを説得する方法を思いつく。
ワナジャの頭頂に砂糖水を塗って、像のところに連れて行き、
「お父さん見て!」
象が鼻を砂糖のついたワナジャの頭につけ、祝福する姿を演出したのだ。
行者の父はそれを見て、「ソマヤ! 象がお前の娘を祝福したぞ!」
こうしてワナジャはヤグネッシュの森の小屋に隠れ住んだ。
「動くの。この子は私の子でもあるの」
ラチはワナジャに学校に戻ることを勧めるが、ワナジャにその気はない。
女主人やその息子が罰を受けるまでは戻らないとワナジャは言う。
おカネがないから学校をやめたのであって、そういうことじゃないだろと思うが話は進む。
すべてが終わって傷つくのはどっちというワナジャの問いにラチは、「アンタだと思う」と答える。
それに対しワナジャは、「それども結構。彼のほうが先に泣くなら」と意地になっている。
「食べる度に彼の種に栄養を上げている気分」と語るワナジャに対し、ラチは言う。
「だったら堕ろしたら?」
「できない」
「どうして?」
「動くの。この子は私の子でもあるの」
女地主の使用人に戻るワナジャ
ワナジャは男の子を出産する。
ワナジャの父は、女主人を訪ね、おカネを無心する。
「こんなに楽におカネが手に入るんだね」と皮肉を言った後、子どもの権利をすべて得ることで60万ルピーで手を打つように提案する。
(楽しておカネを手に入れているのは上流階級のアンタだろう)
父は家に帰ると、「奥様が今すぐ赤ん坊が欲しいそうだ」とワナジャに言う。
結局ワナジャは、女主人に戻らせて欲しいと頼む。
だが女主人は言う。
「みんなに何て言えばいいんだよ。お前は男と逃げたと言ったんだよ」
(「間違いを隠すためにウソをつくのは別だ」と言っていたのは誰でしたかね)
「奥様、私も同じように言いいます。あのラム・バブと逃げたと説明します」
ワナジャは自分の子をベッドに連れて行っても良いかと尋ねる。
泣きながら、「奥様の足に触れて良いですか」と許可を求めるワナジャ。
(インドでは伏して足に触れることは最上の敬意を意味する。)
「やめとくれ。ラーダマ、その子を渡しておやり」
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「僕は彼女の踊り、美しいと思うけどね」
ワナジャはラーダマに、自分が赤ん坊の頃から使っていたタオルがあるはずだがと尋ねるが、ラーダマは「見たことがない」と答える。
再開した踊りの稽古に女主人の息子シェカール・バブが顔を出すが、ワナジャは踊りを続ける。
女主人は「サルが跳ねてるのかい」とワナジャを叱る。
シェカール・バブは、「僕は彼女の踊り、美しいと思うけどね」
「分かったような口をきくんじゃないよ」
そんな母子のやりとりに思わずニマッとするワナジャだった。
「私はあなたを利用したの。信じられる?」
ベッドで眠る我が子にワナジャは自作の歌を歌う。
♬
お父さんは服を買ってくれる
学校に行かせてくれる
外国にも連れてってくれるわ
あなたのことみんなに紹介する
私はあなたの乳母になる
あなたのことは坊っちゃまと呼ぶわ
♬
続けて子どもが成長したらワナジャもここを出て、ダンナ様を見つけるのと言うワナジャ。
「私はあなたを利用したの。信じられる? 本当の母親があなたのこと利用したのよ」
(意味深)
肌の白さへの異様なこだわり
シェカール・バブが来て、赤ちゃんを抱っこじ、乳母に聞く。
「この子、僕に似てないか」
「この子の肌は少し黒いです」
「もう少し白いほうが良かったのに」
それを聞いたワナジャは言う。
「もっと早く私にもそう言ってくだされば良かったのに」
「口を慎め。子どもとお前が一緒でなければ私がどうしたか、分かるか?」
「何をするつもりだったの?」
結婚を望むワナジャ、カーストの壁ゆえ望まないシェカール
ある日、血だらけのシェカール・バブが帰って来て、ワナジャが呼ばれる。
心配するワナジャにシェカールは、
「奴らに痛めつけられている時、私が誰のことを考えていたと思う? お前と赤ん坊のことだ」
と言って、腕輪をワナジャにプレゼントする。
「私はすぐ怒る。悪いこともして来た。でも良いこともしている。私を怒らせるな。お前の面倒は見るつもりだ。私が悪くないことを理解しろ」
(お前が悪いだろ?悪くないことを理解しろと言われても理解できん。意味が分からん)
「私と結婚したいと言ってるの?」
「そんなことは言ってに。来週は立候補を発表するから、お祭りになるだろう。お前にはサリーを買ってやろう」
「私のカーストが低いから結婚できない? 英語をもっと上手に話せたら?」
「ここでケンカはしたくない」
「素晴らしい踊り子だったら?」
「口答えするな!」
もらった腕輪を置いて去ろうとするワナジャにシェカールは聞く。
「どんなサリーが欲しい?」
「結婚式用!」
結婚したいワナジャに対し、ワナジャを好きだがワナジャのカーストが低いため結婚はできないシェカール。
結婚は高いカーストの娘とじてワナジャは妾(めかけ)にしたいシェカールだろうが、幼く純なワナジャにとってそれは受け入れがたいことだ。
死んだことにされるワナジャ
シェカール・バブの立候補を祝うパーティーで、女主人が出席者に孫のことを語る。
「この子の母親が亡くなった後、丸2日間は何も口にしなかったの。色ももう少し白くてね」
(「間違いは罪ではない。でも間違いを隠すためにウソをつくのは別だ」と言っていたのは誰だっけ)
ワナジャは給仕しながらそれを耳にする。
踊りの稽古の時、女主人がワナジャに「気を入れて」と注意すると、ワナジャは言う。
「どうやって? 私のこと死んだって言っておいて」
「お黙り! よくまあ口答えできるもんだ」
「あなたがおっしゃったことを言っただけです」
(肌の色のことがたびたび登場するが、インドでは色の白いことが良いこととされる。実際インドの上流階級は色が白い傾向がある)
ワナジャが痛みで顔をしかめる顔が美しいというシェカール
赤ちゃんにミルクを与えているワナジャのところにシェカール・バブが来て言う。
「見ているだけで穏やかな気分になるね。心が落ち着く」
ここまでは良いが、その後でまたおかしなことを言う。
「お前が一番美しく見える時はどんな時か分かるか? 痛みで顔をしかめる時だよ。だから時々お前を傷つけたくなる」
(お前はサドか!と突っ込む。なんていう展開だ!)
続けてバカ息子のシェカールは言う。
「なぜかって? そう、お前を私が守ることができるからだ」
(?、分からん、さっぱり分からん)
女地主の息子の対立候補に情報を提供するが失敗
ラチから父ソマヤの具合が悪いと聞いたワナジャが実家に帰ると、父親はまた酔いつぶれていた。
「みんながお前の噂をしている。奥様のところの赤ん坊は自分の子だと自慢してるって。この先お前と誰が結婚してくれる? 一生あの家の召使のままだぞ」
とワナジャの将来を心配する父に、ワナジャは言う。
「私を本当に助けたいなら、お酒をやめて」
※
ワナジャの父ソマヤが女主人の使用人たちに両脇を抱えられて連行されて来る。
女主人手には手紙があり、それを彼女が読み上げる。
「あなたのご子息が身分の低い使用人の少女との子どもをお育てになっていることを存じ上げております。立候補を取り止めず、ご子息がその少女と結婚しない場合は警察に通告せざるを得ないことをお知らせ申し上げます」
選挙の対立候補ラム・レディーにソマヤが告げ口したことを疑っているのだ。
女主人の息子シェカールは、ソマヤに殴りかかり、ソマヤの歯が抜けてしまう。
父ソマヤは抜けた歯を地中に埋めるようワナジャに言う。
幸運が舞い込むというのだ。
ワナジャは巾着袋にそっと入れる。
(日本では上の乳歯を床下へ、下の乳歯を屋根上へ投げると良いという言い伝えがある。生えてくる永久歯をその方向へちゃんと導いてくれるように、というおまじないだ。世界各地にいろいろな言い伝えがあるが、いずれも乳歯の話)
ここでワナジャにとっての母の唯一の思い出が語られる。
それは、ワナジャが卵を割ってしまい、母親からぶたれたことだという。
(母親の思い出がそれだけ? マジ? と思ってしまう)
父ソマヤは、自分はワナジャのお尻を何度も叩いたが、「母さんが死んでから2度と叩いていない」と言う。
「この尻軽女!当然の報いを受けるがいい」
ワナジャと父は、リキシャに乗って対立候補だったラム・レディー宅に向かう。
警察への力添えを頼むが、ラム氏の答えは冷たかった。
「ラマ・デビの家庭問題に首を突っ込むわけにはいかない」
シェカールはすでに立候補を取り下げていたから、彼らは用無しなのだ。
「こんな奴は助けてくれないわ」
「何だと!この尻軽女!当然の報いを受けるがいい」
と議員候補の本音が出る。
貧しいがゆえ、身分が低いがゆえ、利用され虐げられる2人。
ラム・バブに証言を頼みに行くワナジャ
いよいよ裁判しかないとワナジャ親子は考える。
しかし証拠がない。
乳母ラーダマは、シェカールを実の子のように思っているから証言しないだろう。
そこでワナジャはあのラム・バブに証言を頼みに彼の家に行く。
ワナジャとシェカールがヤギの側でしていた話を立ち聞きしていたからだ。
だが、彼は話し声は聞こえたが内容まではわからなかったとワナジャに言う。
「それはどうでも良いの。ウソをついて欲しいの」
(おいおい、ウソをつかせるつもりだったのかよ)
弱みにつけ込む習性の卑怯なラム・バブは、なら俺と寝るかとワナジャに言う。
踊って見せてくれ、そして服を脱いでいけ、と迫る。
ワナジャは音楽がないととか、しゃがみ込んでパールヴァティ女神に祈ったりしてはぐらかそうとして応じないのでラム・バブは怒る。
「アンタの言うことは何でもするから」とワナジャが言っても、ラム・バブは彼女を追い出した。
女主人にウソを見破られて即認めるラム・バブ
ワナジャが父の許に帰ると、父はすでに息絶えていた。
村人たちが遺体を原っぱに運び、薪を組んで荼毘にふす時、ラム・バブも来て、同情した彼は、ワナジャの願いを聞き入れる。
翌日2人で女主人を訪ねると、女主人が短い話をしようと言って比喩の物語を語り始める。
(短くないぞ!)
その寓話を簡単にまとめるとこんな話。
サルが熟した美味しそうなマンゴーを取ろうとしていると、そこにカラスがやって来て、マンゴーが欲しいカラスはサルにこう言う。
「そのマンゴーには毒がある。捨てないとお前は死んでしまうぞ」
それを聞いたサルはマンゴーを地面におとした。
カラスはしめしめと思い、落ちたマンゴーを取りに行った。
その時サルはどうしたか。
カラスを捕まえて食べてしまった。
「お前たちにこの話をしたのはなぜだと思う? ウソは上手につかなければ、食べられてしまうってことだ。」
(えっ、そこ? ウソをついてはいけないという戒めかと思ったら、ウソは上手につけってか?)
「ヤギが鳴いてたのに、2人の会話が分かってって? 今すぐ警察に検証させたっていいんだよ。本当のことを言いなさい」
(えっ?ヤギの鳴き声ってそんなにうるさかった?)
女主人のこの指摘にびびったラム・バブは、「奥様、聞こえませんでした」と簡単に白状してしまう。
ワナジャは、「聞こえたって言ってよ」と叫ぶが後の祭り。
「この娘の父親はどこ?」と聞く女主人。
「昨日亡くなりました」
そのことに同情した女主人は、ワナジャを家の中に入れるよう乳母ラーダマに言いつける。
それでもワナジャはラム・バブを泣きながら叩くのだった。
肌の色が黒いとカーストが低い?
赤ちゃんを抱き、木の小物入れから何かを取り出すワナジャ。
それは民族音楽のパドマからもらった鈴だった。
それを巾着袋に入れたところを見たシェカールが聞く
「それ何?」
ワナジャは巾着の中身を手のひらの上に載せ、「どっちのこと?」
「両方」
「この鈴はブーラカーサの踊り手がくれたの。こっちは父の歯。これはあなたのおかげね」
「僕のせいで死んだのか。僕が殴ったから死んだんじゃないよな」
続けて彼は言う。
「いつかこの子はカラスみたいだと言ったことがあるよな。もっと肌が白ければハトになれたのに」
そこへ女主人が入って来て、
「ラーダマ、これを塗って私の孫のカーストが(低いと)分からないように」
ラーダマは歌いながらそ赤ちゃんにその薬を塗る。
「私の赤ちゃんカラス 私の愛おしいカラス お前は黒い 白くなりますように」と。
(塗り方はアバウトとしっかり全体に塗るわけでないところを見ると単なるおまじないかと思ってしまう。それに肌の色へのこだわりがすごい。ワナジャより女主人のほうが黒い感じもするんだけどなあ)
その後、女主人は、
「私はお前にイギリ・ナンディーニのことを教えただろ? ドゥルガー神が悪神マヒーシャースラをどのように退治したか覚えているかい?」と言って、ワナジャを踊りの稽古場へ連れて行く。
イギリ女神の物語をワナジャが舞う。
かなり上達している。
内容はこうだ。
聖者が祈りを捧げていると
悪神マヒーシャースラが襲って来た
聖者は神々に助けを求めた
神々は力を合わせ
あなたをお造りになった
9回形を変えて9日間成長した
10日めにドゥルガー神となった
悪神と矢で戦い、剣で戦い、槌矛で戦い
最後は三叉で戦った
ワナジャに「お前が出て行くなら」とある約束をする女主人
女主人ラマ・デビがワナジャに語りかける。
「いつの日か素晴らしい踊り手になるんだろう?」
「私はこの子をただ取り戻したいだけ」
「どこへ行くの?」
「ラーダマみたいにならなければどこでもいい」
怒った女主人は、ラーダマを呼んで赤ちゃんをワナジャの許から離す。
「ここにいれば赤ちゃんの未来は約束されている。教育を受け、いつか首相になるかもしれない。お前がここを出て行くなら、約束しよう。あの子が大きくなったらお前のことを話し、会わせよう」
ワナジャが出て行った後、シェカールは母親に言う。
「そんなことをしたら彼は僕や母さんのことを絶対に許さないだろう。それに彼女が結婚したらどうなる?夫はあの子を受け入れる?」
それを聞いた女主人は「そうだね」と、いとも簡単に先程ワナジャにしたばかりの約束を反故にしてしまう。
(おいおい、約束ってそんなに軽いものなのか)
女主人の約束を信じてラチと象に乗って買い物に行くワナジャ
ラチが象に乗ってワナジャのところにやって来る。
「足輪を買いに行かない?」
象の鼻に誘われて象の背中に乗るワナジャはラチに言う。
「覚えてる? ブーラカーサの踊り手が鈴をくれたこと」
「パドマのこと?」
「あの鈴とお父さんの歯は奥様に預けたの。あの子が大きくなったら渡してくれるって。それから私に会わせてくれるの」
女主人の約束を信じたワナジャ。だがその約束は実行されそうにない。
鈴と歯が、将来もしかしたらワナジャと息子を引き合わせてくれるかもしれないと一縷の望みを抱かずにはいられない。